つながる車「コネクテッドカー」の普及、セキュリティがカギになる

つながる車・コネクテッドカーの普及、セキュリティがカギ

「コネクテッドカー」や「自動運転車」といった次世代のスマートカーが5Gを生かした新しいビジネスモデルとして期待されています。コネクテッドカー市場は拡大を続け、2035年までには販売する新車の90%がコネクテッドカーになると予想されています。そこで今回は急速に普及が進むコネクテッドカーや自動運転車の発達により車社会の流れがどのように変化していくのかと、そのセキュリティリスクについてご紹介したいと思います。

 

コネクテッドカーとは

コネクテッドカーとは、車とつながれているインターネットの通信機能を活かし乗り物として利用するだけでなく、将来的には動ける情報端末機器としての可能性を探ることでユーザの満足度や生活の質の向上を目指すことを目的にした車両です。総務省の定義では「ICT端末としての機能を有する自動車」とされています。ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」のことで、コネクテッドカーはこのICTを利用して、ネットワークを通じて様々な情報を取得し運転に役立てています。例えば、自車の状態と周辺の状況を通信センターに送信し、送られた情報をもとにして便利な情報(渋滞を避ける最短ルートなど)を車に返信したりします。

自動運転車は、人間が運転操作を行わなくとも自動で走行できる自動車のことをいいます。2020年4月1日、公道での交通ルールを定めた「道路交通法」と、公道を走行する車両が満たさなくてはならない条件を定めた「道路運送車両法」が改正され、公道上で「レベル3」の自動運転が解禁になりました。レベル3の自動運転とは、自動運転システムごとに定めた使用条件(走行環境条件)下において、運転行為をシステム側に委ねることができる「特定条件下における自動運転」をさします。システム側からの引き継ぎ要求があれば、運転車は運転行為に復帰しなければなりません。しかし自動運転中は、携帯電話の利用や車載ディスプレーの注視といった非運転行為を行うことが可能になります。限定領域において無人自動運転を実現する自動運転レベル4も、コネクテッド技術の恩恵を大いに受けています。コネクテッドカーは完全な自動運転車に進化するための一歩だとみることができます。

 

メリット

緊急通報サービス

コネクテッドカーが届けるサービスにより、事故時などの対応がスムーズに行われるようになります。事故や運転中に不測の事態が起こった場合自動的に警察や消防に連絡を入れる緊急通報システムは、既にレクサスやトヨタなどの新製品の一部に導入されています。 車両搭載のセンサーがエアバッグの作動などを検知した場合や、ドライバーが緊急通報ボタンを押した場合、緊急通報センターのオペレーターが事故車両の乗員に連絡を取ります。ドライバーが意識不明などで反応がない場合にはGPSを介して正確な位置データを送信するので、一刻を争う人命救助では大きな効果が期待されています。

 

盗難車両追跡システム

ドアのこじ開けなどによる車のオートアラーム作動を検知した場合、メールや電話で通知する他、所有する車が盗難に遭った場合にはその車の位置を追跡します。リモートイモビライザーによって、エンジンの再始動やステアリングロックの解除を禁止するなど、盗難時にリモートで車を制御することも可能です。

 

保険料が抑えられる

テレマティクス保険」によって保険料が安く、お得になる可能性があります。テレマティクス(Telematics)とは、通信を意味するテレコミュニケーション(Telecommunication)と情報科学を意味するインフォマティクス(Informatics)を組み合わせた造語で、移動体に通信システムを組み合わせてリアルタイムに情報サービスを提供することの総称です。

テレマティクスサービスで入手・活用される主なデータは ①運転者の特定 ②走行距離 ③走行速度 ④走行時間 ⑤走行地域(位置情報) ⑥急加速・急ブレーキの回数 ⑦ハンドル操作の安定性(急ハンドルの頻度やカーブ操作など)です。

テレマティクス自動車保険は、そのテレマティクスのシステムを利用した自動車保険サービスです。自動車に搭載したデバイス(機器)が契約した自動車やドライバーの運転情報等を通信システムを介して保険会社に送ります。そして保険会社は運転データを分析した上で個別に保険料率を計算して、ドライバーに保険料を請求する、という仕組みです。走行距離に加えて速度や急加速、ブレーキ回数など運転者の運転行動を分析して保険料に反映するため、優良ドライバーなら保険料が下がる可能性があります。

 

5Gを利用して広がる新技術

NTTドコモKDDIソフトバンクの3社は、第5世代移動通信システム「5G」の商用サービス化に向け、コネクテッドカーや自動運転にも関連するさまざまな実証実験を行っています。5Gの実用化などの一つのイノベーションを機に、コネクテッドカーや自動運転車といった技術や実用化も大幅に進化する可能性が高いとみられています。

車がさまざまなモノと通信可能になることを「V2X(Vehicle to Everything)」と呼びますが、この技術の進化にも5Gが関わっています。V2Xは「V2V(Vehicle to Vehicle)」、「V2I(Vehicle to Infrastructure)」、「V2P(Vehicle to Pedestrian)」、「V2N(Vehicle to Network)」という4つの形態に分類されます。車にSIMが搭載されインターネットに接続できるのはもちろん、車同士での通信、信号機との通信、歩行者との通信も可能になり、ネットを介してクルマにさまざまな情報が集約されます。これらは既存のLTEでも可能な技術ですが、大容量・低遅延の5Gを活用すれば、サービスの幅や質がさらに広がります。

C-V2Xは、スマートフォンの世界に迫っているのと同じ5Gネットワークを利用できる通信技術で、他の車との通信をはじめ交通信号など道路上の機器との通信も実現することにより、機能と安全性を向上させます。C-V2Xを推進している業界団体5GAAは、8社が参加して2016年に創設されました。現在は複数の業種にまたがる120社が参加しています。C-V2Xによる車がその位置や速度、進行方向をブロードキャストするような技術は、既に現行の4Gネットワークでも一部で実現されていましたが、5Gを利用する新技術では、一時停止の交差点で優先通行を譲り合ったり、車線の合流のタイミングを図ったりすること等も可能になります。信号と通信することで、青信号に合わせて運転速度を加減できるようになったり、車同士が通信して隊列走行する車の数を増やし、燃料効率を向上したりすることも可能です。

 

コネクテッドカーとセキュリティの課題

コネクテッドカーには次のようなセキュリティリスクがあることが指摘されています。

  • 操舵システムに外部からアクセスされ、勝手にハンドル操作されてしまう(ハッキングの脅威)
  • 車両への直接攻撃リスクの他、コネクテッドカーを取り巻く環境・基盤への攻撃リスク

2015年、2人のコンピューターセキュリティ専門家がジープ・チェロキーの安全実験を行ったところ、ハッキングにより遠隔操作できることが実証されたニュースはすでに有名です。車体には一切触れることなく離れた場所からクルマの制御を奪えるとあって、世間に与えた衝撃は大きく、製造メーカーの米フィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)は140万台のリコールを行い、車載ソフトウェアを更新する事態となりました。

またコネクテッドカーに関わるソフトウェアに、消費者のプライバシーを損なう重大な脆弱性が存在するという報道を度々目にします。 車のデータベースに接続されている個人情報がハッキングされるだけではありません。車両車間通信(V2V)技術により、コネクテッドカーは自分の位置と進行方向を常に発信し続けるのですが、これらが悪用される可能性もあるのです。

コネクテッドカーのセキュリティは、より多くのものがオンライン化されるにつれ、その課題を増すでしょう。車両システムのIoT製品や組み込み機器、接続先のサーバーやインフラにハッキングを防御するセキュリティシステムの導入や、情報を暗号化するソリューションを組み込むことが求められます。コネクテッドカーや自動運転車の安全な普及には、こうしたサイバー攻撃への対策も不可欠となります。