情報セキュリティガイドラインとは?基本からポイントまで解説

近年、企業の情報漏えいのニュースが頻繁に報じられています。顧客や社内の機密情報が外部に流出すれば、企業の信用が傷つくだけでなく、損害賠償や事業継続の困難など深刻な事態に発展するおそれがあります。情報の重要性が増している今、情報を正しく管理し、安全に扱うことは、企業が果たすべき重要な責任です。

この責任を果たすために欠かせないのが、「情報セキュリティガイドライン」の導入と活用です。本記事では、情報セキュリティガイドラインの基本的な考え方から、実務に役立つ活用ポイントまで詳しく解説します。参考として代表的な情報セキュリティガイドラインも紹介しますので、ぜひご覧ください。

情報セキュリティガイドラインとは

「情報セキュリティガイドライン」とは、企業が情報を適切に管理・保護するための考え方やルールをまとめた指針のことです。企業が実施すべき具体的な対策項目や運用手順、リスク管理の基準など、さまざまなノウハウが体系的に整理されています。

情報セキュリティでは、以下の3つの観点から情報を守ることが求められます。

  • 機密性(アクセス者の適切な制限)
  • 完全性(正確性の保持)
  • 可用性(必要なときにアクセス可能)

これらの実現にあたり、情報セキュリティガイドラインは企業の羅針盤となるでしょう。

情報セキュリティガイドラインは、各企業が独自に策定する場合もあれば、官公庁や業界団体が提供しているものもあります。すでに公開されているものを参考に、自社に合ったガイドラインを選定・策定すれば、スムーズに導入することができるでしょう。

なぜ今、情報セキュリティガイドラインが重要なのか

情報セキュリティガイドラインの重要性は、現代社会の変化とともに高まっています。ここではなぜ今、情報セキュリティガイドラインが重要なのかを解説します。

サイバー攻撃の脅威増大

近年、サイバー攻撃の脅威は急速に増大しています。その標的となる情報を守るためには、より強固なセキュリティ体制を構築することが重要な課題です。

総務省の「令和6年版 情報通信白書」によると、サイバー攻撃と疑われるWeb上の通信数は、2015年頃から増加傾向にあります。2022年には、2015年と比べて8倍以上にも増加しました。このように、サイバー攻撃の脅威は確実に企業へと忍び寄っています。

グラフ, 棒グラフ

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出典:令和6年版 情報通信白書

サイバー攻撃にもさまざまな種類がありますが、その多くは企業の大切な情報を狙ったものです。セキュリティ対策により情報を守るためには、羅針盤となる情報セキュリティガイドラインが欠かせません。

DX推進で求められる情報管理の見直し

DX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方が広まり、多くの企業が業務のデジタル化を進めています。その際に欠かせないのが、情報管理の見直しです。

DXを進めるうえで重要な取り組みのひとつが、紙や手作業で扱っていた情報をデジタル化することです。これにより、業務の効率が上がり、情報を有効に活用しやすくなります。しかし一方で、新しいセキュリティ上のリスクも発生します。従来の対策だけでは、想定外の脅威に対応できないケースも出てきます。

たとえば、クラウドサービスやIoT(モノのインターネット)機器を導入した場合、情報の保存場所や通信経路が複雑になります。適切なアクセス権限の設定や新たな管理項目を加えないと、情報漏えいや不正アクセスの危険性が高まります。

DXによってビジネスの仕組みを変えていくには、情報セキュリティガイドラインを活用し、信頼性のある管理体制を構築することが重要です。

働き方の変化によるリスクへの対応

働き方の選択肢が広がり、テレワークやハイブリッドワークを導入する企業が増えています。それに伴い、新しいセキュリティリスクへの対応が求められるようになりました。

従業員が自宅や外出先から企業のシステムにアクセスするケースが増えたことで、これまで明確だった「社内ネットワーク」という境界があいまいになっています。もし適切な対策を取らなければ、従業員の使う端末がサイバー攻撃の入り口になり、深刻な被害につながるおそれがあります。

このようなリスクを防ぐには、技術的な対策に加えて、従業員のセキュリティ意識も大きく変えていく必要があります。情報セキュリティガイドラインには、多様な働き方に対応するための基本的な考え方や実践的な対策がまとめられており、安全な業務環境を整えるうえで大きな役割を果たします。

情報セキュリティガイドラインを活用するメリット

企業が情報セキュリティガイドラインを活用するメリットは、主に以下の3つです。

情報漏えいのリスクを低減できる

情報セキュリティガイドラインの導入によって、情報漏えいのリスクを低減できます。

多くの情報セキュリティガイドラインには、従業員が情報を扱う際の注意点や、具体的な対策項目が記載されています。たとえば、パスワードの適切な管理方法や、不審なメールへの対処法、機密情報の持ち出し制限などが一般的な記載項目です。

こうした内容を全従業員に周知すれば、人的ミスや管理不備などによる情報漏えいを抑制できるでしょう。結果として、企業の情報資産が保護され、対外的な信頼の維持にもつながります。

迅速なインシデント対応が可能

情報セキュリティガイドラインを導入することで、万が一インシデント(セキュリティ事故)が発生した場合にも、迅速な対応が可能となります。

多くの情報セキュリティガイドラインには、インシデントが発生した際の対応手順が記載されています。たとえば、「誰に」「何を」「いつ」報告するのかといった連絡体制や、初動対応としてシステムを隔離する方法、証拠を保全する手順などが一般的な記載項目です。

こうした対応内容を日頃から従業員に周知しておけば、インシデント発生時にも慌てず、適切な手順で対応できます。インシデントへの対応が遅れると、影響はシステム全体のみならず、サプライチェーンにも波及しかねません。だからこそ、迅速な対応が大切です。

なお以下の記事では、サプライチェーンへの影響を最小限に抑えるためのセキュリティガイドラインの活用手順について解説しています。あわせてご一読ください。

サプライチェーン・セキュリティ・ガイドライン|基本から実施手順まで

法的リスクを低減できる

情報セキュリティガイドラインを遵守することで、企業は法的リスクを低減できます。

多くの情報セキュリティガイドラインは、「個人情報保護法」「マイナンバー法」「不正アクセス禁止法」といった各種法令への準拠を前提に構成されています。そのため、ガイドラインに沿って取り組めば、法的に不適切な対策を講じてしまうリスクを抑えられるでしょう。

情報管理の不備によって法に抵触すれば、企業は損害賠償請求や行政処分といったペナルティを受けかねません。こうした事態を回避するうえでも、情報セキュリティガイドラインに沿ってセキュリティ体制を整備するのが有効です。

情報セキュリティガイドラインに含まれる主な要素

情報セキュリティガイドラインには、企業が安全に情報を取り扱うための多様な要素が含まれています。情報セキュリティガイドラインに含まれる主な要素は、次の4つです。

情報活用の基本ルールと考え方

情報セキュリティガイドラインには、情報活用の基本ルールと考え方が記載されることが一般的です。それらを参照すれば、組織として情報をどのように取り扱うべきか、どのような原則を守るべきかを把握できます。

たとえば、「業務目的以外での情報の利用は禁止」といったルールは、従業員の行動指針として機能します。また、「情報の機密性に応じて取り扱い方法を変える」といった考え方が示されていれば、どの情報が特に慎重に扱うべきかを具体的に理解できるでしょう。

こうしたルールや考え方は、基本的な心得として従業員一人ひとりに理解してもらうことが大切です。各人がセキュリティ意識を持って行動することで、情報漏えいや不正利用といったリスクを未然に防止できます。

現場で求められる具体的な対策

多くの情報セキュリティガイドラインでは、日々の業務で必要となる具体的な操作や設定、日常的な注意点などが紹介されています。こうした内容を参照することで、現場で実践すべき具体的な対策を明確に把握できます。

たとえば、パスワードの適切な管理方法や不審なメールへの対処法、機密情報の持ち出し制限などがよく見られる項目です。また、外出先やテレワークを想定したガイドラインであれば、社外からの安全なアクセス方法や業務用デバイスの取扱いに関するルールも記載されているでしょう。

こうした具体的な対策は、従業員が実務でセキュリティを意識し、実践するための手引きとなります。

インシデント対応やセキュリティ運用の手順

情報セキュリティガイドラインには、情報漏えいや不正アクセスといったインシデントへの対応手順が記載されることが一般的です。たとえば、インシデント発生時の連絡体制やシステムの隔離方法などが挙げられます。

それに加え、日常的なシステムの点検やログの監視といったセキュリティ運用の手順も盛り込まれています。これらは、異常の早期発見や予防的な管理に役立つでしょう。インシデントの被害を最小限に抑えるためには、事後対応だけでなく、平時からの備えが欠かせません。ルールの整備と従業員への周知が、強固な体制づくりにつながります。

リスク管理に関する基準やルール

情報セキュリティガイドラインには、リスク管理に関する基準やルールも記載されることが多いです。情報資産の評価基準や優先順位付けのルール、リスク対策の指針など、限られたリソースの中で効率的に対策を進めるための方針を把握できます。

情報セキュリティ対策にかかる費用や労力を考えると、すべての対策を一度に実施することは現実的ではありません。だからこそ、想定されるリスクを正しく評価し、影響度や発生頻度に応じて対策に優先順位をつけることが大切です。判断基準を明確にしておけば、組織全体で一貫した対応が取りやすくなります。

汎用的に役立つ3つの情報セキュリティガイドライン

情報セキュリティガイドラインは数多くあります。ここでは、幅広い業種・規模の企業で汎用的に役立つ代表的なガイドラインを3つご紹介します。これらは、多くの企業が情報セキュリティ対策を進めるうえで、参考にできる基本的な指針となるでしょう。

中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(IPA)

IPA(情報処理推進機構)が提供している、中小企業向けの情報セキュリティガイドラインです。中小企業の経営者が知っておくべき責任や原則から、担当者・責任者が知っておくべき実務での対策方法まで、体系的に整理されています。

中小企業でも無理なく取り組めるよう、費用や人材の制約に配慮した実践的な対策がまとめられているのが特徴です。日本企業の大半を占める中小企業にとって、セキュリティ対策の第一歩を踏み出す際の心強い味方となるでしょう。

中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(IPA)

サイバーセキュリティ経営ガイドライン(経済産業省)

経済産業省が提供している、経営者に向けた情報セキュリティガイドラインです。経営者が把握すべき3原則や、現場に示すべき10項目の行動指針が明記されています。

サイバー攻撃が経営に与える影響に着目し、経営者が果たすべき責任と行動を明確にしているのが特徴です。具体的な対策例や、付録のチェックシートも用意されているため、企業規模を問わず経営者の取り組みに役立つでしょう。

サイバーセキュリティ経営ガイドライン(経済産業省)

テレワークセキュリティガイドライン(総務省)

総務省が提供している、テレワーク環境を想定した情報セキュリティガイドラインです。テレワークを導入予定・導入済みの企業における管理者や経営者のみならず、すべてのテレワーク勤務者にも役立つ内容となっています。

テレワークにおける立場ごとの役割から技術の選定・設定、具体的な対策方法、トラブル事例まで網羅されている点が特徴です。企業がテレワークを安全かつ継続的に運用していくうえで、実践的な指針として活用できます。

テレワークセキュリティガイドライン(総務省)

業界・分野ごとの情報セキュリティガイドライン一覧

ここでは、主要な業界・分野ごとの情報セキュリティガイドラインを一覧表でご紹介します。関連記事も併せて掲載しましたので、ぜひご活用ください。

種類ガイドライン名備考
教育教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン関連記事
医療医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
製造工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン
金融金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン
自動車自動車産業サイバーセキュリティガイドライン
建設建設現場における情報セキュリティガイドライン
小売小売電気事業者のためのサイバーセキュリティ対策ガイドライン
インフラ国土交通省所管重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係るガイドライン
自治体地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン関連記事

業界や分野によって、求められる情報セキュリティ対策の要件が異なる場合もあります。所属する業界・分野に特化した情報セキュリティガイドラインがあれば、そちらを活用することをおすすめします。

情報セキュリティガイドラインの価値を最大化するためのポイント

情報セキュリティガイドラインの価値を最大化するためには、ポイントを押さえて導入することが大切です。以下で紹介する4つのポイントを把握しておきましょう。

業界や企業に合ったガイドラインを選ぶ

情報セキュリティ対策を進めるうえで、業界や企業に合ったガイドラインの選定が重要です。金融機関と教育機関で扱う情報やシステム環境が異なるように、取り巻く環境が変われば、最適な指針も変わってきます。

そのため、自社の業種や企業規模、組織の特性などを深く理解し、現実的かつ実用的な内容のガイドラインを選びましょう。必要に応じて複数のガイドラインを組み合わせることで、特定のリスクに偏らず、より網羅的で多角的なセキュリティ対策を構築できます。

自社の実態やリスクに応じて調整する

情報セキュリティガイドラインは、すべての企業に最適化されているわけではありません。業種や体制、リソース状況などによって、そのままでは運用が難しい対策項目も出てきます。そのため、自社の実態やリスクに応じて調整を加えるとよいでしょう。

たとえば、リスクが低い対策項目は簡素化し、リスクが高い部分は重点的に対応する、といった工夫が求められます。無理なく運用できる形に整えることで、現場にも定着しやすくなり、実効性のある情報セキュリティ対策につながります。

全社的に情報共有して理解を深める

情報セキュリティガイドラインに沿って取り組む際には、全社的に情報共有して理解を深めましょう。一部の経営層だけがガイドラインの内容を理解しているのでは不十分です。現場の従業員を含めた、関係者全員が共通認識を持つことが欠かせません。

ガイドラインの内容に加え、自社での調整内容や具体的な取り組み状況についても丁寧に共有しましょう。定期的なセキュリティ研修や情報発信の場を設けることも効果的です。従業員1人ひとりの理解が深まれば、継続的な対策の定着につながるでしょう。

定期的に取り組みを評価・更新する

ガイドラインに沿った取り組み状況は、定期的に評価しましょう。実施中の対策に効果があるのか、運用に問題がないかを把握するためには、継続的な点検が欠かせません。問題があれば対策項目を追加したり、実施方法を見直したりする柔軟な対応が求められます。

また、情報セキュリティを取り巻く環境は常に変化しています。新たなサイバー攻撃に対応するために、ガイドライン自体も改訂されることが少なくありません。最新の動向を踏まえ、自社の対策内容を更新することも大切です。

まとめ

情報漏えいリスクが増大する現代において、企業の情報セキュリティ対策は不可欠です。本記事では、企業が情報を適切に管理・保護するための指針である「情報セキュリティガイドライン」について解説しました。

ガイドラインを活用することで、情報漏えいリスクの低減、迅速なインシデント対応、法的リスクの低減といったメリットが得られます。ガイドラインには数多くの種類があり、自社に合ったものを選ぶことが大切です。

情報セキュリティ対策を講じる際には、今回の内容をぜひ参考にしてください。