TikTokの利用禁止?世界の動きと企業に求められる対応について徹底解説

Why-Countries-Are-Trying-to-Ban-TikTok

若い世代を中心に世界中でユーザが増えている動画アプリ「TikTok」。中国のバイトダンス社が運営しているこのアプリは10億人以上のユーザに利用されていますが、アメリカやヨーロッパを中心に利用禁止の動きが拡大していることをご存知でしょうか。TikTokの利用が制限されている背景には政治的な事情もあり、今後の動きにも注目が集まっています。

本記事では、TikTokの利用を禁止する世界各国の動きとその背景、TikTok側の主張を解説します。TikTokに限らず、従業員のSNS利用については企業も十分な対策を検討しなければなりません。企業がすべき対応についても解説するので、担当者の方は参考にしてみてください。

なぜ、世界各国でTikTokの利用が禁止されるのか?

世界各国でTikTokの利用を禁止する動きが広がっています。たとえば、各政府機関の政府端末でTikTokの利用を禁止する法案が可決されており、2023年に入ってからはベルギー、イギリス、カナダで政府支給端末や政府関連端末での同アプリの利用が禁止されています。特にアメリカでは、全米の半数以上の州で、州から支給された端末でのアプリの利用が禁止されています。

政府機関以外にも禁止の動きが広がりつつあり、アメリカでは3月1日、国内でのTikTokの利用を全面的に禁止する法案が、下院の外交委員会にて、賛成多数で可決されています。可決にはまだいくつかのプロセスが必要になりますが、大きな影響が懸念されています。

それでは、なぜ世界各国でTikTokの利用禁止の動きになったのでしょうか。

一般的な理由は、中国政府がTikTokを通してユーザデータにアクセスしている可能性があるから、というものです。きっかけは、2022年12月に明るみに出た不正アクセス事件です。アメリカの経済誌「フォーブス」は、TikTokの運営会社であるバイトダンス社の社員が、TikTokの取材を担当していた複数の記者の位置情報データを不正に入手しようとした、と発表しました。TikTokアプリを用いて不正に位置情報データや個人情報にアクセスしようとしたとされ、バイトダンス社側はこれを認め、関与した社員を解雇しています。この事件をきっかけに、アメリカをはじめ世界各国でTikTok利用禁止の動きが活発化しました。

もちろん、データの不正な入手の懸念があるから、という理由の他に政治的な背景もあります。たとえば、中国には「国家情報法」という法律があり、国家の情報活動への個人や組織の協力が義務付けられています。仮に国が「TikTokを通じて入手した個人情報を政府に提供しろ」と協力を要請した場合、バイトダンス社はその要請に従わざるを得ない可能性があると考えられています。つまり、TikTokを通じて国の重要人物や企業の重役などの個人情報がバイトダンス社側へと提供された場合、中国政府にもその情報が渡る恐れがある、と懸念されているのです。

懸念はまだ仮説的なものに留まるとされてはいますが、TikTokの利用禁止の動きが活発化している背景には、こうした政治的な理由もあるのです。

TikTok側の主張は?

TikTok側は、データの中国政府への提供について一貫して否定しています。2023年4月にはアメリ連邦議会公聴会にて、バイトダンス社の周受資CEOが証言を行いました。中国政府への情報提供を否定し、政府の要請を受けたコンテンツの宣伝や削除などについても否定しています。議員と周CEOとの議論は平行線をたどり、双方の溝が埋まることがなく、依然としてアメリカ国内では禁止の動きが進むと考えられます。
Tiktokの利用をめぐる日本の対処
世界各国でTikTok利用禁止の動きが活発化する中、日本はどのように対処しているのでしょうか。日本でも、政府公用端末でのTikTokの利用は制限されています。

2023年3月、EU欧州委員会が職員用の端末でのTikTokの利用禁止を決定したことを受け、日本での対応を質問する声に松野博一官房長官が答えました。「政府端末で要機密情報を扱う場合には、TikTokをはじめとするSNSなど、外部サービスの利用が禁止されている」とのことです。つまり、TikTokに限らず、日本政府では政府公用端末でのSNSの利用が制限されていることが明らかになりました。

仮にアメリカでTikTokの利用全面禁止が決定された場合、日本がどのような対応をとるのかにも注目が集まっています。基本的には、今の日本の立場は欧米諸国と同じくTikTokを警戒しながらも、全面的に禁止する方向では動いていないと考えられています。あくまでも、「特定の国や企業の製品、サービスを排除しない」としたうえで、「セキュリティの強化」に重点をおいて対応していく、というのが政府の基本的な方針と考えられています。

企業は今後どう対処すべきか

それでは、TikTokに対して企業はどのように対処していけば良いのでしょうか。現時点では、日本政府がTikTokに対して強硬的な姿勢をとっていないこともふまえ、社員の利用を全面的に禁止するといった策を講じる必要はない、というのが一般的な見方です。特に、TikTokは10代から20代の若者を中心にユーザが増えているSNSでもあるため、マーケティングの場として注目している企業も少なくないでしょう。

しかし、TikTokに限らずSNSの利用に関しては、企業として管理を徹底しなければならないこともあります。TikTokは特に情報漏洩や不正アクセスが懸念されているSNSですが、どのようなSNSWebサービスであっても、セキュリティ上のリスクは否定できるものではありません。そのため、従業員のSNSの利用が企業の情報漏洩や不正アクセスにつながらないか、管理を徹底する必要があります。

たとえば、社用端末での私的なSNSアカウントへのログインを禁止したり、社内の機密情報の発信を禁止したり、差別的な投稿や誹謗中傷をしないようにコンプライアンス研修を実施したりといった対応が求められます。SNSの利用を全面的に制限する必要はないものの、セキュリティ対策には企業として十分に注意すべきです。

まとめ

TikTokの利用禁止を巡る問題は、様々な利害関係が複雑に絡み合っている部分もあり、結論に至るまでにはかなりの時間がかかりそうです。しかし、国家間の合意はさておいて、データを巡るセキュリティ問題は深刻化しており、企業に慎重な対応と厳重なセキュリティ対策が求められています。TikTokに限らず、社用端末でのSNS利用の制限や、従業員へのコンプライアンス研修はもちろん、ネットワークや社内システムへのセキュリティ対策の実施など、情報漏洩をはじめとするリスクに対応していかなければなりません。