韓国で成立したAI基本法とは?日本企業への影響と国内法規制の現状

AI(人工知能)の活用が広がるにつれ、AIをめぐる問題も世界中で見られるようになってきました。こうした中で、各国におけるAI関連の法整備も進んでいます。特に注目を集めているのが、韓国で2026年1月に施行された「AI基本法」です。

AIの活用を積極的に考えているものの、ガバナンスやコンプライアンスの面で不安に感じている企業の担当者も多いのではないでしょうか。これからAIの活用を安全に進めていくためには、AIの法整備が進んでいる他国の現状を知ることが有用です。

そこで本記事では、韓国で成立したAI基本法の概要と、日本企業への影響について解説します。あわせて、日本におけるAI法整備の現状や今後の動向も整理しますので、ぜひ参考にしてください。

韓国で成立したAI基本法とは

韓国で成立したAI基本法とは、AIの産業育成と安全確保を両立させるための新しい法律です。2024年12月26日に韓国の国会で可決され、2026年1月22日に施行されました。EUで成立した「AI法」に続く包括的なAI規制法として、世界で注目を集めています。

韓国科学技術通信部:「人工知能の発展と信頼基盤の構築に関する基本法」(AI基本法)

まずは、AI基本法が制定された背景や目的、EUのAI法との違いを整理しましょう。

制定の背景と目的

韓国でAI基本法が制定された背景には、AI技術への強い危機感があります。AIが世界的に普及し、その活用が国際競争力に直結する時代となりました。こうした中で、韓国は従来の「IT強国」から「AI強国」への発展を目指しています。

一方で、AIの普及はディープフェイク犯罪や著作権侵害といった種々の問題を招いているのが現状です。AIの活用を国策として進めるのであれば、悪用による社会的な混乱を防ぐための枠組みは、早急に整備すべき課題でした。

AI産業を力強く育成しつつ、安全に利用できる環境を整えるために制定されたのが、本題であるAI基本法です。AI関連の法整備を世界に先駆けて進めることで、世界のAI市場における主導権を握る狙いがあるとの見方もあります。

EUのAI法との違い

韓国のAI基本法よりも先に成立した法規制として、EU(欧州連合)のAI法があります。EUのAI法とは、AIの安全性向上とイノベーション促進を目的とした法律です。2024年7月に公布されました。

EUのAI法は、AIを4つのリスクレベルに分類して規制を課しています。許容できないリスクを伴うAIの利用を禁止し、ハイリスクなAIには厳格な要件を定めているのが特徴です。

一方、韓国のAI基本法は産業振興とのバランスを重視しています。禁止規定を設けず、高影響AIや生成AI(文章や画像を自動生成するAI)の管理に的を絞った柔軟な制度設計です。

なお、EUのAI法は段階的に施行されており、多くの規定が適用されるのは2026年8月以降の予定です。そのため、包括的な法律としては韓国のAI基本法が先行して施行されたことになります。

韓国におけるAI基本法の全体像

韓国のAI基本法は、大きく分けて4つの要素で構成されています。それぞれの具体的な内容を把握しておきましょう。

構成要素主な内容
推進ガバナンス国家AI委員会(大統領委員長)設置、3年ごとのAI基本計画策定、AI安全研究所設置
産業支援R&D投資、AIデータセンター、学習データ政策、中小企業・スタートアップ特化支援
安全・信頼確保高影響AI(医療・金融等)のリスク管理、生成AIの透明性・表示義務
執行・罰則事実調査権限、違反時最大3000万ウォン(約330万円)罰金、域外適用

前の2要素は、AI産業を力強く育てる「アクセル」といえます。対して後ろの2要素は、AIの悪用やリスクを防ぐ「ブレーキ」としての役割を担う仕組みです。

このように、AIの活用を安全に促進するため、アクセルとブレーキの両面から包括的な枠組みを定めているのが、韓国におけるAI基本法の全体像となります。

韓国のAI基本法による日本企業への影響

AI基本法は韓国の法律であっても、日本企業も決して無関係ではありません。条件を満たせば、日本の法人も規制の対象となるためです。

ここでは、韓国のAI基本法が日本企業に与える具体的な影響を解説します。自社のビジネスにどのような対応が求められるのか、しっかりと確認しておきましょう。

  • 域外適用の対象範囲
  • 具体的な義務とリスク
  • 日本企業がすべきこと

域外適用の対象範囲

韓国のAI基本法では、一定の条件を満たす場合、国外の事業者にも法律を適用するルールが採用されています。これを「域外適用」と呼びます。

具体的には、韓国のユーザーに向けてAI関連の製品・サービスを提供している場合、日本企業もこの法律の対象に含まれます。そのため、韓国を市場に含むAIビジネスを手掛ける企業は、国境を越えて規制が及ぶ点に留意しなければなりません。

直接的な拠点が韓国にある場合だけでなく、同国を市場とするAIビジネスをインターネット経由で提供する企業にも適用されます。現地の法規制に合わせた運用体制を構築する責任が生じるため、十分な準備が求められるでしょう。

具体的な義務とリスク

域外適用により韓国のAI基本法の対象となった場合、一定要件(売上/ユーザー等)を満たす事業者には、さまざまな義務やリスクが生じます。具体的には以下の4つです。

義務・リスク概要
国内代理人の指定韓国に拠点がない場合でも、一定の要件を満たす事業者は韓国国内の代理人を指定して政府へ申告する義務を負います。
透明性確保と告知高影響AIや生成AIを利用する際は、その事実を利用者へ事前に告知し、生成物にはAI製である旨の表示をしなければなりません。
安全性とリスク管理人の生命や権利に影響を与える高影響AIを扱う場合、リスク管理策の策定や人の目による管理監督を徹底する責任があります。
調査対応と過料(罰則)義務に違反した疑いがある場合は韓国政府の立ち入り調査を受け、違反が確定すれば最大3000万ウォンの過料が科せられます。

このように、韓国に向けてAIビジネスを展開する日本企業は、コンプライアンス体制の根本的な見直しを迫られます。現地代理人の確保や、システムへの表示機能の追加といった実務的な対応が必要です。事業の規模や提供するAIの種類に合わせて、着実に対策を講じることが求められるでしょう。

日本企業がすべきこと

韓国のAI基本法は2026年1月22日に施行されたため、日本企業は速やかに対策を進めることが求められます。日本企業が具体的にすべきことは、主に以下の3つです。

自社サービスの棚卸しと適用対象の把握まずは、自社の提供するサービスが、AI基本法の対象になるか詳細な棚卸しを行いましょう。高影響AIや生成AIに該当するかどうかの確認が、初動における急務です。
下位法令の注視と規約やシステムの改修韓国政府が発表しているAI基本法の下位法令(詳細なルール)の動向を継続して注視しましょう。これらは利用規約の改定や、システム改修を正しく行うための具体的な指針となります。
国内代理人の確保と専門家との連携韓国のユーザー数や売上高が一定の基準を満たす企業は、韓国国内で窓口となる代理人を速やかに確保しましょう。あわせて、現地の言語や法律に精通した専門家と連携し、現地の最新情報を常に把握できる体制を整えることも重要です。

AIを取り巻く日本の法整備状況

韓国やEUではAIの法制化が進んでいますが、日本国内のルールはどうなっているのでしょうか。日本企業にとっては、自国の法整備状況を正確に把握しておくことも大切です。

ここでは、AIを取り巻く日本の法制化の現状と、政府が推進している取り組みの大枠を解説します。

2025年9月にAI法が全面施行

日本でも、AIに関する法整備は一定の進展を見せています。特に、2025年9月には「AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)」が全面施行されました。

日本のAI法では、内閣総理大臣をトップとするAI戦略本部の設置や、AI基本計画の策定などについて定めています。国を挙げてAI技術の研究開発や活用を推進するための、重要な枠組みとなる法律です。

出典:内閣府「AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-

ただし、韓国のAI基本法やEUのAI法のような、民間への直接的な罰則付き義務は限定的となっています。違反に対する厳しい罰則を設けて企業を取り締まるための規制法ではない点に特徴があります。あくまで国が企業の取り組みを支援し、適切な運用に向けて指導・助言を行うための推進法です。

日本ではAIのリスクを懸念しつつも、AI産業の成長や技術革新を後押しする方針を目指しています。過度な規制で発展を妨げないよう、海外のような強力な法整備は見送られました。当面は罰則を用いず、企業の自主的なガバナンスを尊重する姿勢をとっています。

今後のAI規制強化の可能性

今後は、日本でも法整備がさらに進み、AIに対する規制が強化されることが考えられます。生成AIをはじめとするAI技術の進化はめざましく、さまざまな倫理問題が浮き彫りとなっています。こうした問題はもはや、海外だけの課題ではありません。

日本企業や日本社会も、AI技術の悪用による脅威にさらされているのが現状です。韓国やEUの法整備も、こうした世界共通の課題に対処するための動きといえるでしょう。国際的なルールの厳格化を受け、日本でも規制を強める議論が進むのは自然な流れです。

一方で日本はこれまで、AIの学習データ利用に寛容な姿勢を示してきました。AIによるイノベーションを重視する方針とのバランスも重要です。そのため、海外のような包括的で厳しい法整備には時間がかかるという声もあります。今後は各国の動向を見極めながら、慎重な議論が続いていくでしょう。

まとめ

韓国のAI基本法は、AIの産業育成と安全確保を両立させる包括的な法律です。2026年の施行にともない、韓国市場でAIビジネスを展開する日本企業にも、国内代理人の指定や表示義務などの対応が求められます。

一方で、日本国内のAI法は、現時点では企業の自主的な取り組みを重んじる推進法となっています。しかし、今後は国際的な動向にあわせて法整備が進む見通しです。国内外の最新ルールを常に確認し、安全なAI活用を目指しましょう。