
今やサイバー攻撃は、大企業に限った脅威ではありません。その被害は、中小企業にも及んでいます。中小企業ではセキュリティ対策があまり進んでいないために、より深刻な被害につながるケースも少なくありません。
サイバー攻撃から自社の情報やシステムを守るためには、企業の規模を問わずセキュリティ対策が不可欠です。とはいえ、何から手をつければよいのか、コストはどれくらいかかるのか、など悩んでいる管理者や経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、中小企業がセキュリティ対策に取り組むべき理由から具体策、よくある課題、対策のポイントまでまとめてお伝えします。ぜひ参考にしてください。
中小企業がセキュリティ対策に取り組むべき理由
中小企業では、セキュリティ対策が後回しにされているケースも少なくありません。しかし、中小企業こそセキュリティ対策に取り組むべきです。まずは、その2つの理由について解説します。
- 理由①中小企業を狙ったサイバー攻撃の増加
- 理由②サイバー攻撃による深刻な被害
理由①中小企業を狙ったサイバー攻撃の増加
近年、中小企業を狙ったサイバー攻撃が増加しています。そのため、「大企業ではないから狙われないだろう」という考え方は危険です。
帝国データバンクが2025年5月に実施した調査によると、過去にサイバー攻撃を受けた中小企業は30.3%にものぼります。特に、その中でも28.1%が「小規模企業」とされており、規模が小さい企業ほど標的にされていることが分かります。
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]「サイバー攻撃に関する実態調査(2025年)」
昨今では、サプライチェーン上の関連企業を侵入口として、最終的な標的企業を狙う「サプライチェーン攻撃」も増えています。この手口では、大企業と比べてセキュリティ対策が手薄な中小企業が狙われるケースが多くなっています。セキュリティ対策をおろそかにしていると、手薄なシステムが攻撃されて深刻な被害を招きかねません。
サプライチェーンのセキュリティについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
サプライチェーンを狙う攻撃が増加中!企業が今すぐ始めるべきセキュリティ対策とは
理由②サイバー攻撃による深刻な被害
中小企業がサイバー攻撃を受けると、被害が深刻化するケースも少なくありません。
IPA(情報処理推進機構)の調査によれば、中小企業において過去3年間に発生したサイバー攻撃の被害額は「50万円未満」が最多でした。しかし、企業ごとの差は大きく、被害額が1,000万円を超えた事例や、最悪で1億円に達したケースも報告されています。
出典:IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」
特に、近年では身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」による被害が深刻となっています。同資料によると、ランサムウェア攻撃を受けた際の平均被害額は約2,386万円です。中小企業が被害を受ければ、経営の危機は免れません。
また、被害を受けた企業の多くでは復旧までに平均5.8日を要し、最大では360日かかった事例もあります。金銭的損失だけでなく、顧客離れや取引先への影響、対応コストの増加など二次的な被害も発生しやすく、事業継続に深刻な影響を与えます。こうした事態を防ぐためには、中小企業であってもセキュリティ対策が欠かせません。
ランサムウェアの対策については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
ランサムウェア対策まとめ|感染時の対処や最新動向・事例も解説
中小企業に求められるセキュリティ対策とは
中小企業がセキュリティ対策を進めるにあたっては、具体策を知ることが大切です。
中小企業のセキュリティ対策は、人的・物理的・技術的の3つの観点から整理できます。ここでは、それぞれの具体策を簡単に見ていきましょう。
①人的な対策
人的な対策とは、組織に所属する人や体制に関するセキュリティ対策です。いくら高価なシステムを導入しても、利用する人やチームの意識が低ければセキュリティ事故は発生してしまいます。人的なセキュリティ対策として、次の3つを検討しましょう。
| 初動対応と報告体制の整備 | サイバー攻撃や情報漏えいなどのインシデントが発生した場合に備え、対応体制を整備しましょう。初動対応の遅れや報告の漏れは、被害拡大を招きます。インシデント発生時に、誰がどう動くのか、いつ・誰に・何を報告するか、といった部分を定めておきましょう。マニュアルとして明文化することが理想です。 |
| セキュリティ人材確保と役割分担の明確化 | セキュリティ対策を主導する中心人物や、統括する責任者など、各人の役割を明確にしましょう。セキュリティ対策を適切に進めるためには、専門家や責任者が不可欠です。セキュリティ人材が不足している場合は、外部からの招聘も検討しましょう。 |
| 従業員教育と情報リテラシー向上 | 個々の従業員がセキュリティに関する適切な知識を持つことも重要です。定期的にセキュリティ教育を行い、従業員全体の意識や情報リテラシーを向上させましょう。また、情報を安全に扱えるように、ルールの周知を図ることも大切です。 |
②物理的な対策
物理的な対策とは、設備や機器に関するセキュリティの対策です。不正な侵入や盗難など、物理的に行われる脅威を阻止するために欠かせません。物理的なセキュリティ対策として、次の2つを検討しましょう。
| 入退室管理の徹底 | 機密情報があるサーバールームや執務室には、施錠を徹底しましょう。可能であれば、ICカードや生体認証などで「誰が」「いつ」入退室したかを記録・管理することが理想です。部外者が簡単に入れない環境を作ることが求められます。 |
| 紙媒体・記憶媒体の管理体制見直し | 機密情報が印刷された紙の書類や、データが入ったUSBメモリなどの管理ルールを見直しましょう。鍵のかかるキャビネットで保管する、不要になった際はシュレッダーで確実に廃棄するなど、盗難や紛失を防ぐ対策が必要です。 |
③技術的な対策
技術的な対策とは、コンピュータやネットワークなどのシステム面で行うセキュリティ対策です。ウイルスや不正アクセスから情報を守るための直接的な防御策となります。技術的なセキュリティ対策として、次の5つを検討しましょう。
| セキュリティ対策ソフトの導入 | 社内のパソコンやサーバーに、セキュリティ対策ソフトを導入しましょう。既知のウイルスや不正なプログラムの侵入を検知・駆除できます。 |
| 強固な暗号化や多要素認証の導入 | 社内の通信や文書は、可能な限り強固な暗号化を施しましょう。通信を暗号化すれば、盗聴リスクを低減できます。重要な文書も暗号化を施せば、盗まれた際の被害を最小限に抑えられます。
また、社内システムの認証には、複数の認証要素を組み合わせる「多要素認証」が効果的です。パスワード以外の指紋認証などを組み合わせることで、不正アクセスのリスクを低減できます。 |
| ソフトウェアやハードウェアの更新 | パソコンのOSやセキュリティ対策ソフト、ルーターなどのネットワーク機器を定期的に更新し、最新の状態に保ちましょう。古いバージョンのまま放置すると、脆弱性(セキュリティ上の弱点)を攻撃者に狙われます。 |
| データのバックアップ | 重要なデータは定期的にバックアップし、異なる場所に保管しましょう。ウイルスによるデータ破壊や記憶媒体の破損、災害時のデータ消失といったリスクを低減できます。 |
| ネットワーク監視の強化 | 脅威の多くはネットワークを介して侵入します。ネットワークを監視し、外部からの不正な通信を早期に検知・遮断する体制を整えましょう。Webサイトへの攻撃を検知・防御する「WAF(Web Application Firewall)」の導入などが効果的です。 |
中小企業がセキュリティ対策を講じる際の課題
中小企業がセキュリティ対策を進めるうえでは、主に3つの課題があります。こうした課題が障壁となり、セキュリティ対策を後回しにしてしまうケースが少なくありません。
- 課題①セキュリティ人材の確保
- 課題②セキュリティ投資費用の確保
- 課題③従業員のセキュリティ意識向上
課題①セキュリティ人材の確保
セキュリティ戦略の策定や運用には、専門的な知識を持つ人材が求められます。しかし、中小企業ではセキュリティ人材が社内にいないケースが多いでしょう。適任者が確保できないために、セキュリティ対策が後手に回るケースは往々にしてあります。
セキュリティ人材が不足した状態では、インシデント発生時の初動対応や管理体制の整備が遅れ、被害の拡大につながりかねません。
課題②セキュリティ投資費用の確保
万全なセキュリティ対策を施せば、その費用は相当な金額になります。しかし中小企業では、セキュリティ投資にかかる費用を捻出できないケースが少なくありません。
IPAのデータによれば、中小企業の約40%が過去3年間でセキュリティ対策に全く投資していません。意識面の問題も考えられますが、予算の制約も大きな要因でしょう。
出典:IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」
必要な費用を確保できなければ、セキュリティ対策は限定的になり、サイバー攻撃に対して大きな不安を抱え続けることになります。
セキュリティ対策の費用については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
課題③従業員のセキュリティ意識向上
高度な対策を施したとしても、従業員のセキュリティ意識が低ければセキュリティ事故に直結します。たとえば、従業員がパスワード管理を軽視した結果、不正アクセスが発生することも考えられます。セキュリティ性を保つためには、従業員の意識向上も欠かせません。
しかし、日々の業務に追われる中で、全従業員にセキュリティの重要性を浸透させるのは容易ではありません。意識を高めるためには、継続的な教育や啓発活動が必要です。
中小企業がセキュリティ対策に取り組む際のポイント
ここでは、中小企業がセキュリティ対策に取り組むためのポイントを3つご紹介します。
- ポイント①セキュリティガイドラインを活用する
- ポイント②国や自治体の補助金・支援制度を活用する
- ポイント③やれることから段階的に取り組む
ポイント①セキュリティガイドラインを活用する
何から手をつければよいかわからない場合、専門機関が公開するセキュリティガイドラインを活用するのが効果的です。セキュリティガイドラインには、対策の指針や注意事項、事例など、有用な情報がまとめられています。
特に、IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は有効です。中小企業向けに最適化されており、現実的にセキュリティ対策を進めるための指針となるでしょう。
情報セキュリティガイドラインについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
ポイント②国や自治体の補助金・支援制度を活用する
セキュリティ対策にかかる費用の負担を軽減するために、国や自治体の補助金・支援制度を活用しましょう。要件を満たしていれば、申請することでセキュリティ対策に関する支援を受けられます。
たとえば、東京都中小企業振興公社の「サイバーセキュリティ対策促進助成金」を活用すれば、セキュリティに関する設備投資の一部を支援してもらえます。こうした制度を有効活用し、限られた予算で効果的に対策を進めましょう。
ポイント③やれることから段階的に取り組む
セキュリティ対策を最初から完璧に施すことは現実的ではありません。一度にすべてを講じようとすると、コストや手間の面で挫折しがちです。まずは、費用対効果が高く、実現しやすい対策から段階的に取り組みましょう。
そのためには、セキュリティリスクや対策項目を洗い出し、それぞれの費用や効果を見積もる必要があります。自社の予算でカバーでき、かつ高い効果が見込める対策項目に優先して取り組むとよいでしょう。
まとめ
サイバー攻撃は、もはや大企業だけの問題ではありません。対策が手薄になりがちな中小企業こそ、攻撃の標的とされています。一度の被害が深刻な経営ダメージや信用の失墜につながるため、中小企業にもセキュリティ対策は必須です。
人的対策、物理的対策、技術的対策の3観点から、適切なセキュリティ対策を講じることが求められます。「自社は大丈夫」と思わず、できることから段階的に取り組みましょう。