ある日、あなたの会社のシステムが突然停止し、社内のデータにアクセスできなくなったとしたらどうしますか?原因を調査すると、ひとつの暗号鍵が第三者に流出し、機密データが外部に漏えいしていたことが判明しました。
実は、こうした「暗号鍵の管理ミス」によるセキュリティ事故は、世界中で頻繁に発生しています。クラウド環境の普及により、多くの企業が暗号化技術を活用していますが、その根幹となる「暗号鍵」の管理が適切に行われていなければ、どんなに高度なセキュリティ対策を施しても意味がありません。
本記事では、実際に発生した暗号鍵に関する事故を取り上げ、それがどのように企業へ甚大な影響を及ぼしたのかを解説します。また、企業が暗号鍵管理を適切に行うために必要なポイントについても紹介します。
あなたの会社のデータは、本当に安全でしょうか?
なぜ多くの企業が暗号鍵管理に悩んでいるのか?
日本の多くの企業が暗号鍵管理に課題を抱えているとされています。その背景には以下のような要因が考えられます。
• クラウドサービスの普及による管理対象の増加
• テレワークの浸透によるアクセス制御の複雑化
• サイバー攻撃の高度化
• 法規制の強化
企業における暗号鍵管理の現実
近年、企業における暗号鍵管理の重要性が急速に高まっています。クラウド環境の普及、サイバー攻撃の高度化、リモートワークの拡大などにより、企業が管理すべき暗号鍵の数が増加し、適切な管理体制の整備が求められています。しかし、現状では多くの企業が暗号鍵管理に課題を抱えており、その結果として重大な情報漏えいや経済的損失を引き起こす事件が発生しています。
企業が直面している暗号鍵管理の課題には、以下のようなものがあります。
- 鍵の一元管理の欠如
多くの企業では、異なる部門やクラウド環境でバラバラに暗号鍵が管理されており、統一的な管理体制が確立されていない。その結果、どの鍵がどのデータを保護しているのか把握しにくくなり、鍵の紛失や不適切な取り扱いが発生するリスクがある。 - アクセス管理の不備
暗号鍵へのアクセス権限が適切に制御されておらず、内部関係者による不正利用の可能性が高まる。
特に、単一の管理者がすべての鍵を操作できる環境では、内部不正や外部攻撃によるリスクが大きくなる。 - 法規制対応の難しさ
個人情報保護法やサイバーセキュリティ基本法などの法律により、企業に適切な暗号鍵管理が求められている。しかし、多くの企業はこれらの規制に準拠するための具体的な施策を理解・実行できていない。 - 災害・障害時の復旧対策の不足
暗号鍵が適切にバックアップされていない場合、システム障害や災害発生時に復旧が困難になる。特に、鍵がひとつの拠点やサーバーに集中している場合、障害発生時に鍵を失うリスクが高まる。
深刻な事例:暗号鍵流出による情報漏えい事故
暗号鍵管理の不備による情報セキュリティインシデントは、以下のような深刻な影響をもたらしています。
事例1 : 秘密鍵の災害・障害復旧に関する情報を悪用した暗号資産の流出
- 業態
暗号資産交換業者
- 事象
- 暗号資産を管理するウォレットシステムへの不正アクセスにより、当社の自己保有暗号資産が流出した。
- 原因
- 自己保有暗号資産を管理する秘密鍵の災害・障害復旧に関する情報を用いて、不正な資産移転が行われた。
- 当該情報に対する十分なアクセス管理が行われていなかった。
- 対策
- 秘密鍵の災害・障害復旧に関する情報に対するセキュリティ管理態勢(情報の暗号化および分散、職務分掌によるけん制機能等を含む)の整備
- 外部からの不正アクセスおよび内部不正リスクを考慮したアクセス権限管理の徹底、モニタリング態勢の整備
事例2 : 暗号鍵管理の不備による暗号資産の流出
- 業態
暗号資産交換業者
- 事象
- 外部からの不正アクセスにより、約580億円相当の暗号資産「NEM(ネム)」が流出した。
- これは、2014年のマウントゴックス事件を上回る日本史上最大規模の暗号資産流出事件となった。
- 原因
- 暗号資産を管理するウォレットが外部インターネットと分離されておらず、オンライン状態で運用されていた。
- 暗号鍵が単一鍵で管理されており、多層的なセキュリティ体制が構築されていなかった。
- 不正アクセス発生後、問題の発見までに8時間以上を要し、対応が遅れた。
- 対策
- 暗号鍵の災害・障害復旧に関する情報に対するセキュリティ管理態勢の強化(情報の暗号化、分散管理、職務分掌によるけん制機能の導入等)
- 外部からの不正アクセスおよび内部不正リスクを考慮したアクセス権限管理の徹底
- リアルタイムモニタリング体制の整備および異常検知システムの導入
- コールドウォレット(オフライン保管)の活用による資産保護の強化
参照:日本経済新聞「コインチェックの仮想通貨不正流出、過去最大580億円」
効果的な暗号鍵管理のためのベストプラクティス
前述の事例を分析すると、適切な暗号鍵管理の欠如が重大なセキュリティインシデントを引き起こす主な要因となっていることがわかります。では、このようなリスクを軽減し、組織の情報資産を確実に保護するためには、どのような対策を講じるべきでしょうか。 以下に、効果的な暗号鍵を管理するための方法について詳しく説明します。 これらの措置は、前述の事例で示された問題に対する具体的な解決策となります。
暗号鍵の生成と保管
- 強力な暗号鍵の生成
- 十分な長さと複雑性の確保
- 業界標準の暗号化アルゴリズムの使用
- 安全な保管方法
- ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)の活用
- KMSサービスの利用
アクセス制御と監視
- 最小権限の原則に基づくアクセス管理
- 定期的なアクセスログの監査
- 異常検知システムの導入
運用管理の重要性
- 定期的なキーローテーション
- インシデント対応計画の策定
- 従業員教育の実施
法律で要求される暗号鍵の管理
サイバーセキュリティ基本法と個人情報保護法における暗号鍵管理
サイバーセキュリティの強化と個人情報の保護を目的として、「サイバーセキュリティ基本法」および「個人情報保護法」が制定・施行されています。これらの法律では、政府機関や企業に対し、適切な情報保護対策の実施を求めており、暗号鍵管理もその重要な要素のひとつとして位置づけられています。
サイバーセキュリティ基本法における暗号鍵管理
サイバーセキュリティ基本法は、国の行政機関、地方公共団体、重要インフラ事業者などに対し、サイバーセキュリティ対策の策定・実施を義務付けています。その対策としては、データ保護、暗号化、アクセス制御、暗号鍵管理などが有効です。
例えば、政府機関や重要インフラ企業が機密情報を暗号化して保護する場合、暗号鍵が適切に管理されていなければ、暗号化の安全性が損なわれる可能性があります。そのため、強固な暗号鍵管理は、サイバーセキュリティ対策の不可欠な要素とされています。
個人情報保護法における暗号鍵管理
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う企業に対し、適切な安全管理措置を講じることが義務付けられています。この安全管理措置には、暗号化やセキュリティプロトコルの活用が含まれ、暗号化データの安全性を確保するためには、暗号鍵の適切な管理が不可欠です。
例えば、個人情報保護法では、個人情報の保存や送信時のセキュリティ対策を講じることを求めています。暗号化された情報が不正にアクセスされないよう、暗号鍵の生成、保存、使用、廃棄までのプロセスを厳格に管理する必要があるとされています。
法律では、暗号鍵管理の具体的な技術要件を明確に規定しているわけではありませんが、サイバーセキュリティや個人情報保護の観点から、適切な暗号鍵管理が求められることは明白です。
暗号鍵管理システム D.AMO SG-KMS
暗号鍵管理システム D.AMO SG-KMS
ペンタセキュリティの D.AMO SG-KMS は、企業が直面する暗号鍵管理の課題を解決する ための統合管理システムです。D.AMO SG-KMSは、以下のような特徴を持っています。
ライフサイクル管理
• 鍵の生成:安全な鍵生成のプロセスを管理し、システムに必要な鍵を作成
• 配布制御:鍵の配布を監視・管理し、不正アクセスを防止
• 更新管理:鍵の定期的な更新を実施し、セキュリティを維持
• 廃棄処理:使用されなくなった鍵を安全に廃棄し、情報漏えいのリスクを最小化
自動化機能
• スケジュール更新:定期的に鍵やポリシーを更新し、セキュリティを強化
• バックアップ自動化:鍵や設定のバックアップを自動化し、災害復旧を迅速にする
• アラート通知:異常や問題が発生した場合に管理者へ通知し、迅速な対応を促進
• レポート生成:システムの運用状況やセキュリティ状態を定期的にレポートとして生成
アクセス制御
• 多要素認証:ユーザーの認証を強化するために、複数の認証要素を使用
• シングルサインオン:一度の認証で複数のシステムにアクセス可能にし、利便性を向上
• セッション管理:ユーザーのセッションを管理し、不正アクセスを防止
• 生体認証対応:指紋や顔認識など、生体情報を用いた認証方式をサポート
権限管理
• ロールベース制御:ユーザーの役職や権限に応じてアクセス権を設定
• 職務分掌:ユーザーの職務に基づいて、必要な権限だけを付与
• アクセスポリシー設定:システムへのアクセスをポリシーに基づいて制限
• 委任管理:権限を他のユーザーに委任し、業務の効率化を支援
マルチクラウド対応
• AWS、Azure、Google Cloudなどの主要なクラウドプラットフォームと連携し、クラウド環境での鍵管理をサポート
まとめ
暗号鍵管理は、デジタル時代の組織のセキュリティ基盤としてその重要性が増し続けています。法的な規制強化やサイバー脅威の進化に伴い、適切な暗号鍵管理システムの導入は、もはや選択肢ではなく必須となっています。
その中でも、ペンタセキュリティのD.AMO SG-KMSは、DX時代における最重要な暗号鍵管理の問題を一気に解決することができる専門的な暗号鍵管理システムです。
企業データの安全性を高めるために、D.AMO SG-KMSの導入を検討してみてはいかがでしょうか?