IDS/IPSとは?特徴や仕組み、メリット・デメリットやWAFとの違いについてわかりやすく解説

サイバー攻撃は年々高度化し、従来のファイアウォールだけでは防ぎきれないケースが増えています。そこで注目されるのがIDSやIPSといった侵入検知・防御システムです。
この記事ではIDSとIPSの仕組みや違い、導入のメリットや注意点、さらにWAFとの関係について紹介します。

IDS/IPSとは?

IDS・IPSとは、サイバー攻撃を検知したり防御したりするために利用される代表的なセキュリティシステムです。ここでは2つのシステムについて紹介します。

IDSとは

IDS(Intrusion Detection System:侵入検知システム)とは、ネットワークやシステムを流れる通信を常時監視し、不正アクセスやマルウェア感染の兆候を検知して管理者に通知する仕組みです。

1990年代後半にワームや不正侵入事件が増加したことを背景に普及し、ファイアウォールでは防ぎきれない高度で複雑な攻撃を補完的に検知する仕組みとして発展してきました。現在では企業や公共機関において重要なセキュリティ基盤のひとつとされ、現代社会に不可欠な存在です。

IPSとは

IPS(Intrusion Prevention System:侵入防御システム)とは、IDSが検知した不正アクセスや攻撃の兆候に対して、自動的に通信を遮断したりセキュリティルールを適用して被害を防ぐ仕組みです。

2000年代に入り、標的型攻撃やゼロデイ攻撃の増加を背景に普及が進み、ファイアウォールやIDSと並ぶ重要なセキュリティ基盤として、企業や公共機関に広く導入されるようになりました。

IDSとIPSの違い

IDSとIPSはどちらもサイバー攻撃対策に欠かせない仕組みですが、目的や配置、運用方法において大きな違いがあります。ここでは、それぞれの特徴や役割の違いを整理して紹介します。

違い①目的

IDSとIPSの最も大きな違いは、その目的にあります。IDSはネットワークやシステムを流れる通信を監視し、不正アクセスやマルウェア感染の兆候を「検知」して管理者に通知することを主な役割とします。これにより攻撃の有無を可視化し、ログに詳細に記録することで、後続の調査や迅速なインシデント対応につなげることが可能です。

一方IPSは、IDSが担う「検知」の機能に加え、不正な通信を「防御」しリアルタイムに遮断することを目的としています。検出した脅威を報告するだけでなく、即座にブロックすることで被害を未然に防ぐ点が大きな特徴であり、IDSは「見つける」、IPSは「止める」という明確な役割分担があります。

違い②配置

IDSとIPSは、設置場所にも明確な違いがあります。IDSはネットワークを横から監視する形で導入され、例えばスイッチのミラーポートに接続してトラフィックを複製し、不審な挙動を検知します。監視カメラのように「見守る」位置にあるため、システムの通信を直接制御することはありません。

一方IPSは通信経路の途中、ゲートウェイやファイアウォールの近くにインラインで配置されます。すべての通信がIPSを通過する仕組みのため、パケット単位で検査し、不正と判断された通信は即座に遮断することが可能です。まさに警備員が出入口に立ち、不審者を中に入れないようにするイメージに近いです。

違い③運用

IDSとIPSは、運用面でも異なります。IDSは誤検知が発生しても通信そのものを止めることはなく、管理者がアラートを精査して対応する必要があります。そのため運用負荷は増える傾向にありますが、24時間の監視体制や専門人材が確保されている組織では高い効果を発揮します。

一方IPSは、不正通信を即座に遮断できるため防御力は高いものの、誤検知によって正規の業務通信までブロックしてしまい、業務停止やサービス影響を引き起こすリスクがあります。そのため、導入には厳密なポリシー設計や継続的なチューニングが不可欠であり、誤検知を抑える運用体制を整備することが強く求められます。

IDS導入のメリット・デメリット

IDSはネットワークの監視役としてのメリットがありますが、一方で導入や運用には注意すべきデメリットも存在します。以下の表では、検知能力・可視性・導入柔軟性といった観点から、IDSのメリット・デメリットを整理しました。

要素メリットデメリット
検知能力不正アクセスや攻撃の兆候を早期に検知できる攻撃を遮断できず、通知後の対応は人手に依存する
可視性と分析ネットワークやシステムの可視性が高まり、ログ分析や監査に活用可能誤検知・過検知が多いと運用者の負担が大きくなる
導入の柔軟性NIDS(ネットワーク型不正侵入検知システム)やHIDS(ホストベースの侵入検知システム)など導入形態を選べるため柔軟に設計可能攻撃が進行中でも即時に止められない

このようにIDSは攻撃の可視化や監査の強化に役立つ一方で、遮断機能を持たない点や誤検知への対応といった課題も抱えています。導入を検討する際は、運用体制や人材リソースとあわせて総合的に判断することが重要です。

IPS導入のメリット・デメリット

IPSは高い防御力を発揮する一方で、導入や運用には注意すべき点もあります。以下の表では、防御力・即時対応・多層防御との連携といった観点から、メリット・デメリットを整理しました。

要素メリットデメリット
防御力不正通信をリアルタイムで遮断し、被害を未然に防止できる誤検知によって正規の通信まで遮断してしまうリスクがある
即時対応管理者の手動対応を待たずに自動で防御可能通信経路に介在するためネットワーク遅延や処理負荷が発生する場合がある
多層防御との連携ファイアウォールなどと組み合わせて多層防御を強化できる高度なチューニングや専門知識が導入・運用に必要になる

上記ように、IPSは強力なセキュリティ対策となりますが、誤検知や運用負荷といった課題も無視できません。導入時には自社の体制やリスク許容度を踏まえ、最適なバランスを取ることが求められます。

IDS/IPS導入時の注意点

IDSやIPSは強力なセキュリティ対策となりますが、導入や運用には注意すべき課題も存在します。ここでは誤検知や遅延、人材不足といった代表的な注意点を整理し、実際の運用で失敗しないためのポイントを紹介します。

注意点①誤検知・過検知への対応

IDSやIPSは不正アクセスや攻撃の兆候を検知・防御する上で欠かせない仕組みですが、運用においては誤検知や過検知が避けられない重要な課題として存在します。

正規の通信を攻撃と誤認して遮断すれば業務システムに支障をきたし、利用者の利便性を大きく損なう恐れがあります。逆に検知件数が過剰になると、管理者は多くのアラート対応に追われ、本来注力すべき重大な脅威への対応が遅れるリスクも生じます。

そのため導入後は検知ルールやシグネチャの最適化、チューニングを定期的に行い、検知精度を継続的に高めることが不可欠です。

注意点②ネットワーク遅延への影響

IPSは通信経路上にインラインで設置されるため、すべての通信パケットを逐次検査する仕組み上、どうしてもネットワーク遅延が発生しやすいという課題があります。処理に時間がかかればユーザーの操作感が悪化し、レスポンスが遅れることで業務効率の低下やサービス品質の低下を招く恐れがあります。

特に大規模ネットワークでは遅延の影響が全体に広がり、深刻なパフォーマンス低下につながるケースもあります。そのため導入に際しては機器性能や処理能力を十分に見極めることが不可欠です。

さらに冗長化設計やロードバランシング、ルールの最適化を組み合わせることで遅延を最小限に抑え、安定したセキュリティ運用を維持します。

注意点③セキュリティ人材や運用体制の課題

IDSやIPSの運用には、検知ログの分析やアラート対応を行うための高度な専門知識と豊富な経験が求められます。しかし、現実には多くの組織でセキュリティ人材が不足しており、24時間体制での監視や迅速な対応を維持することが難しく、結果として脅威を見逃したり初動対応が遅れるリスクが高まります。

こうした課題を克服するには、外部のマネージドサービスを活用して専門家による継続的な監視や助言を受ける方法が効果的です。さらに、自動化ツールを導入してアラート処理を効率化し、組織全体で運用ルールやインシデント対応手順を明確に整備することもおすすめです。

IDS/IPSとWAFの違い

IDS/IPSと似たセキュリティ製品にWAF(Web Application Firewall)があります。IDSやIPSがネットワーク全体の不正通信を監視・防御するのに対し、WAFはWebアプリケーションを狙った攻撃に特化したセキュリティ製品です。

以下の表では、それぞれの目的や監視範囲、特徴を比較し、役割の違いを整理しました。

項目IDSIPSWAF
目的不正な通信を見つけて通知する不正な通信を見つけて自動で止めるWebアプリへの攻撃を防ぐ
監視場所ネットワークの動きを監視ネットワークの通信を監視し遮断もするWeb通信(HTTP/HTTPS)を詳しく確認
特徴通知だけで止めることはしない検知と同時にブロックできるSQLインジェクションやXSSなどWeb特有の攻撃に強い

このように、IDS/IPSとWAFはそれぞれ異なる領域をカバーしており、役割が明確に分かれています。そのため一方のみで十分と考えるのではなく、両者を組み合わせて活用することで防御範囲を広げ、より実践的で強固なセキュリティ体制を整えることができます。

まとめ

IDSとIPSはそれぞれ役割が異なり、検知と防御を組み合わせることでセキュリティ体制を強化できます。しかし誤検知や遅延、人材不足といった課題も存在するため、導入にあたっては体制や運用設計を十分に検討することが不可欠です。特にWebアプリケーションを狙った攻撃は近年急増しており、IDS/IPSだけでは防ぎきれないケースも多くあります。

こうした状況に有効なのが、ペンタセキュリティが提供するインテリジェント型WAF「WAPPLES」です。世界70万サイトを保護する実績を持ち、独自の論理演算ロジック型検知エンジンにより誤検知を低減し、Web改ざんや個人情報漏えいなど多様な脅威からシステムを守ります。

自社に最適なセキュリティ対策を選び、多層的な防御を実現することが、これからの時代に安心して事業を継続するための鍵となるでしょう。