
AIによるサイバー攻撃は、人工知能の学習・解析能力を悪用し、従来の防御を回避して被害を拡大させる新たな脅威です。精巧なディープフェイクや自動化されたマルウェア生成、最適化されたDDoS攻撃など、手口は多様かつ高度化しています。
本記事では、AIを悪用したサイバー攻撃の具体例や手口、効果的な対策を紹介します。
AIによるサイバー攻撃とは?
AIによるサイバー攻撃とは、人工知能の学習・分析機能を悪用し、従来の防御を回避しながら被害を拡大させる手口の総称です。AIは膨大なログや公開情報を解析して脆弱性や侵入経路を素早く特定し、検知ルールを迂回する手法や精巧なマルウェアの生成まで自動化します。
さらに、フィッシング文面やディープフェイク音声の量産、DDoSへの最適化なども容易で、専門知識に乏しい攻撃者でも高度な攻撃を実行できる点が大きな脅威です。その結果、専門知識を持たない攻撃者でも高度な攻撃を仕掛けられるようになり、脅威は急速に拡大しています。
こうした状況に対応するには、技術面・人材面・運用面のすべてで、AIを前提としたセキュリティ体制の強化が求められます。
AIを悪用したサイバー攻撃の手口
AIを悪用したサイバー攻撃は、巧妙化と多様化が進み、従来の防御策だけでは防ぎきれない脅威となっています。ここでは、ディープフェイクやDDoS攻撃、AIファジング、データポイズニングなど、代表的な手口とその危険性を紹介します。
手口①ディープフェイク
ディープフェイクとは、AI技術を用いて人物の動画や音声を人工的に合成する技術です。高度な処理により、本物と見分けがつかない偽の映像や音声を生成でき、人々を欺くために悪用される事例が増えています。
特に公的人物や企業の評判を損なう目的で利用されるケースが目立ち、社会的混乱や信頼失墜を招く恐れがあります。そのため、ディープフェイクを見抜く識別技術や検証体制の向上が急務となっています。
手口②DDoS攻撃
DDoS攻撃とは、特定のWebサイトやサーバーに大量のデータパケットを送り続け、意図的に負荷をかけてサービスを停止させるサイバー攻撃です。AIを活用したDDoS攻撃は、トラフィックの送信方法やタイミングを最適化し、短時間で高効率に対象を無力化します。
さらに攻撃パターンが複雑化することで、従来の検知・防御手法では対応が困難になるケースも増えています。そのため、高度な分析とリアルタイム対策が重要です。
手口③AIファジング
ファジングは、ソフトウェアに大量のランダムデータを入力し、不具合や脆弱性を発見するテスト手法です。AIを活用したファジングは、この過程を高度かつ効率的に行えるため、未知の脆弱性を短時間で特定できます。
しかし、悪意ある攻撃者が利用すれば、従来知られていなかった弱点を突く新たな攻撃を生み出す危険性があります。自動化による攻撃の高度化を防ぐため、開発者は最新の防御技術や検証プロセスの強化が求められます。
手口④AIデータポイズニング
AIデータポイズニングは、AIモデルの学習過程において、意図的に誤ったデータを混入させる攻撃手法です。これにより、モデルの判断や予測が歪められ、誤った結果を導き出す危険性があります。
攻撃者はこの手法を利用して、データの盗聴や改ざん、さらにはシステムの管理権限剥奪といった不正行為を行うことも可能です。特にAIを活用する企業やサービスでは、学習データの信頼性を確保し、不正混入を防ぐ体制の構築が不可欠です。
AIを悪用したサイバー攻撃の事例
AIを悪用したサイバー攻撃は、実際の事件として国内外で発生しており、その手口や影響は年々深刻化しています。ここでは、生成AIによるマルウェア作成やディープフェイク動画、不正アクセスなど、近年の代表的な事例を取り上げ、その危険性と社会への影響を紹介します。
事例①生成AIを利用してマルウェアを作成
2024年、対話型生成AIを悪用し、特定ファイルの暗号化や仮想通貨口座への送金を要求する文書を表示するプログラムのソースコードを作成した事件が発生しました。
注目すべきは、容疑者がIT企業での勤務経験や高度な技術知識を持たず、専門的な背景のない人物であったにもかかわらず、生成AIを用いることで高度な攻撃用プログラムを容易に作成できたという点です。
生成AIを利用してマルウェアを作成し、逮捕に至ったのは国内で初めてとされており、AI悪用の敷居が著しく下がっている現実を浮き彫りにしています。
事例②ゼレンスキー大統領の偽動画
2022年、ディープフェイク技術を用いてゼレンスキー大統領の偽動画が作成・拡散されました。この動画には、ウクライナとロシアの紛争における情報戦の一環として、ウクライナ兵に降伏を呼びかける内容が含まれていました。
真偽の判別が困難な映像は、兵士の士気を低下させ、混乱を招く可能性があり、国家レベルの心理戦に悪用されるリスクがあることが明らかになりました。
こうした事例は、AIが生成する映像情報の信頼性を確保することの重要性を、改めて示しています。
事例③通信会社のシステムに不正ログイン
2025年、中高生3人が大手通信会社のシステムに自作プログラムで不正ログインし、通信回線を契約・転売して利益を得ていた事件が発覚しました。
彼らは対話型生成AIサービスを悪用し、プログラムの作成や処理の効率化を図っていたとされています。
警視庁は不正アクセス禁止法違反および電子計算機使用詐欺の疑いで3人を逮捕しました。この事件は専門的知識に乏しい若年層でも、AIを活用することで高度な不正行為が可能となる現状を浮き彫りにした事例です。
AIを悪用したサイバー攻撃への対策
ここまでAIを活用したサイバー攻撃の事例を紹介してきましたが、対策も欠かせません。ここでは特におすすめしたい4つの対策を紹介します。
対策①AIを活用したセキュリティツールの導入
企業がサイバー攻撃に強い体制を構築するには、既存のセキュリティ対策を整えた上で、AIを活用した高度な防御策を組み合わせることが有効です。例えばAIに通常時と異常時のセキュリティログの差異を学習させることで、リアルタイム監視や迅速な異常検知が可能になります。
さらにディープラーニングを用いてマルウェアの特徴や行動パターンを学習させれば、未知や変異型マルウェアにも対応できます。特に自己変異型マルウェアのように従来のソフトでは検知が難しい脅威も、AIによる継続的な分析と予測で早期発見・封じ込めができ、被害の最小化と継続的なセキュリティ強化につながります。
こうした取り組みは企業の信頼維持や顧客情報保護にも直結します。
AIを活用したサイバー攻撃対策については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
「AIセキュリティとは?企業の活用事例や導入のリスク、対策について解説」
対策②脆弱性診断やペネトレーションテストの導入
企業のセキュリティ強化には、脆弱性診断やペネトレーションテストの導入が欠かせません。これらの手法を活用することで、攻撃を受ける前にシステムやネットワークの脆弱性を正確に特定し、危険度や影響度に応じてランク付けし、報告・改善対応まで行うことが可能です。
定期的な診断と迅速な対策を継続することで、脆弱性を悪用したサイバー攻撃を未然に防ぎます。さらに、AIを活用した侵入テストでは、進化する最新の攻撃手口を高精度で再現でき、従来では見落としがちな複雑なリスクも効率的に発見できます。
こうした継続的な取り組みは、金銭的損失の防止だけでなく、企業ブランドや顧客からの信頼維持にも直結し、長期的な事業継続性を高めます。
対策③従業員への教育
AIを悪用したサイバー攻撃を防ぐためには、従業員一人ひとりのリテラシー向上が不可欠です。まず、AIが生成した文章や画像、音声などのコンテンツについて、その真偽を見抜くためのファクトチェックや批判的思考を養う必要があります。
さらに、プロンプトインジェクションやデータポイズニングといったAI特有の攻撃手法に関する基礎知識を習得し、最新の脅威にも対応できるよう備えます。また、不審なメールやチャット、指示を受けた場合には、必ず別経路での本人確認や複数段階の検証を徹底することが重要です。
こうした教育を継続的に実施することで、組織全体のセキュリティ意識を高め、攻撃の被害を未然に防ぐ体制を構築できます。
情報セキュリティガイドラインについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
「情報セキュリティガイドラインとは?基本から運用のポイントまで解説」
対策④マネージドサービスの導入
自社で十分なセキュリティ対応ができる人材や体制がない場合、マネージドサービスの導入は有効な選択肢です。
マネージドサービスとは、企業のクラウドやネットワーク、セキュリティの監視や運用といったIT関連業務を外部の専門業者に委託するサービスを指します。特に、24時間体制のセキュリティ監視や複雑なインフラの運用支援など、自社の限られたリソースだけでは対応が難しい業務を効率的にカバーできます。
これにより、企業は内部の人材や時間を本来注力すべき重要な業務に集中させることができ、生産性と安全性を同時に高められます。また、専門知識や最新技術を持つ外部パートナーの力を活用することで、より堅牢で柔軟なセキュリティ体制の構築が可能になります。
まとめ
本記事では、AIを悪用したサイバー攻撃の具体例や手口、効果的な対策を紹介しました。
AIを悪用したサイバー攻撃は、誰でも高度な手口を実行できる時代をもたらしました。企業や組織は、AIを活用したセキュリティツールや脆弱性診断の導入、従業員教育、マネージドサービスなど多面的な防御策を講じることが不可欠です。
今後の継続的な対策と最新情報の把握が、安全な事業運営と信頼維持の鍵となります。
企業の情報セキュリティでお困りの際は、ぜひペンタセキュリティまでご相談ください。