クラウドストレージはどこからでもアクセスができることや、必要に応じて容量を調整できることなど、さまざまな利点があります。しかし、利便性が高い一方で、セキュリティリスクも存在します。情報漏えいに備えるためにはクラウドストレージのセキュリティリスクを理解し、しっかりとした対策を行うことが重要です。特に「暗号化」はクラウドストレージの有効なセキュリティ対策のひとつです。
本記事では、クラウドストレージに潜むセキュリティリスクと、安全に使うための対策について詳しく解説します。
クラウドストレージのセキュリティリスク
クラウドストレージは便利な反面、いくつかのセキュリティリスクが存在します。ここでは、代表的な3つのリスクについて解説します。
外部からのサイバー攻撃
クラウドストレージを活用する企業が増えるにつれ、企業の機密情報を狙った外部からのサイバー攻撃も増加しています。不正アクセスによって保管中のデータが盗まれたり、ランサムウェアなどのマルウェアによって改ざん・削除されたりする事例も報告されています。
実際に、クラウドサービス上での情報漏えいインシデントは年々増加しており、利用者側にも高いセキュリティ意識が求められています。
内部不正
クラウドストレージは、アクセス性が高く、業務関係者との情報共有もスムーズに行うことができます。一方で、利便性の高さが裏目に出てしまい、内部不正のリスクを高めてしまう可能性があります。
従業員や退職者などによる意図的な機密情報の持ち出しや不正使用といった行為は、企業にとって大きな損害を引き起こすリスクとなります。
また、内部不正は通常の操作と見分けがつきにくいことから発見が遅れる傾向があり、早期に発見できる仕組みや対策が重要になります。
設定ミスによる情報漏えい
設定ミスによる情報漏えいはクラウドストレージを利用するうえでの大きなリスクになります。アクセス権限や共有設定を誤ると、本来外部に見せてはいけない情報が、誰でも閲覧できる状態になってしまう可能性があります。
実際に、クラウドストレージに保存された機密情報が長期間公開されていた事例も確認されています。
このような状況から、総務省は「クラウドの設定ミス対策ガイドブック」を公開しています。
クラウドストレージのセキュリティ対策
クラウドストレージを安全に利用するためには、複数のセキュリティ対策を組み合わせることが推奨されます。クラウドストレージの代表的なセキュリティ対策は以下のようなものがあります。
ここでは、それぞれのセキュリティ対策について解説します。
認証とアクセス制御
クラウドストレージの認証とは、ファイルやデータにアクセスしようとするユーザーが正規の利用者かどうかを確認する仕組みです。クラウドストレージは、インターネット環境があれば場所を問わずアクセスできる便利なサービスですが、その分、不正アクセスのリスクも高くなるため、認証情報(例:パスワードやID)の管理には特に注意が必要です。
例えば、パスワードが簡単すぎたり、他のサービスと使い回していたりすると、第三者に不正ログインされてしまう可能性があります。強力なパスワードの設定や多要素認証(MFA)の導入によって、セキュリティを強化することが重要です。
また、ファイル単位でアクセス権を設定し、「誰がどのファイルを見られるか・編集できるか」を明確に制御することも、情報漏えいや改ざんのリスクを減らすために有効です。特に社内でクラウドストレージを共有して使う場合は、部署や役職に応じた適切なアクセス権限の設定が求められます。
さらに、アクセス権は一度設定して終わりではなく、定期的に見直して、退職者や異動者の不要な権限を削除することが安全性を保つうえで欠かせません。これを怠ると、過去にアクセス権を持っていたユーザーがそのまま情報に触れられる状態になり、思わぬ情報漏えいにつながるリスクがあります。
通信の暗号化
クラウドサービスを利用する場合、データのやり取りはインターネット経由で行われるため、通信内容が第三者に盗み見られたり、途中で書き換えられたりするリスクがあります。こうしたリスクを防ぐためには、通信経路の暗号化がとても重要です。
具体的には、TLS(Transport Layer Security)などの暗号化プロトコルを使って、通信内容が外部から読み取れないように保護する必要があります。これは、インターネット上で安全にデータをやり取りするための標準的な方法です。
特に、パスワードやクレジットカード番号、個人情報などの機密データをクラウドに送信する際は、必ず暗号化された通信で行う必要があります。暗号化されていない通信は、悪意のある第三者にとっては「丸見え」の状態であり、情報漏えいや不正アクセスにつながる恐れがあります。
そのため、クラウドストレージやその他のクラウドサービスを利用する際は、
・サービスがTLSなどによる暗号化通信を採用しているか
・URLが「https://」から始まっているか
といった点を必ず確認しましょう。
データの暗号化
クラウドストレージを使用する際には、保存されているデータを暗号化することが、機密情報を守るために非常に重要です。暗号化することで、万が一クラウドサービスに不正アクセスされた場合でも、データの内容が読み取られることを防ぐことができます。
一部のクラウドサービスでは、保存されたデータを自動的に暗号化する機能を提供しており、ユーザーが特別に設定をしなくても安心してデータを保管できます。しかし、もしクラウドサービスがデータの暗号化をサポートしていない場合は、ユーザーが自分でファイルを暗号化してからクラウドに保存する方法があります。
自分でファイルを暗号化する場合、強力なパスワードを設定して暗号化することが大切です。こうすることで、万が一パスワードが漏えいしても、解読が困難になります。
ログの記録と監視
不正アクセスや内部不正のリスクを低減するためには、ログの記録と監視を行うことが有効です。ユーザーのアクセス履歴や操作履歴をログとして記録し、定期的に監視することで不審な動きを早期に発見できます。
ログを記録することは、セキュリティインシデントの発生時にも、原因の追跡や影響を把握するために役立ちます。そのため、ログは一定期間以上は保管しておくことが推奨され、破壊や改ざんを防ぐためにバックアップを取得するなど、適切に管理する必要があります。
クラウドストレージにおいて暗号化が特に重要な理由
暗号化はクラウドストレージのセキュリティ対策の中でも、特に重要な役割を果たします。以下に、暗号化が重要となる理由について解説します。
情報漏えいリスクを最小限に抑えられる
近年のサイバー攻撃は、ますます高度化し、さまざまな手法が使われるようになっており、どれだけ強固なセキュリティ対策を施しても、完全に防ぐことは非常に難しいのが現実です。そのため、攻撃を受ける可能性があることを前提にしたセキュリティ対策を行うことが非常に重要です。
その一つが、暗号化です。データを暗号化しておけば、たとえ不正アクセスを受けたとしても、データの内容が読み取れなくなるため、情報漏えいのリスクを最小限に抑えることができます。これにより、攻撃者が手に入れたとしても、得られる情報が無意味であるため、被害を大幅に軽減できます。
内部不正や人的ミスにも対応できる
暗号化は、外部からの攻撃だけでなく、内部不正や操作ミスによる情報漏えいのリスクを減らすためにも非常に効果的です。
データを暗号化しておけば、機密情報が万が一持ち出されたとしても、正当な鍵を持っていない限り、内容を読み取ることはできません。これにより、データが盗まれた場合でも、悪用されるリスクを大幅に抑えることができます。
また、設定ミスで誤って共有範囲を広げてしまった場合でも、暗号化されたデータであれば、誤ってアクセスした人が内容を理解できないため、情報漏えいのリスクを最小限に抑えることができます。
クラウドストレージを暗号化する方法
クラウドストレージに保存されたデータを暗号化するためには、主に暗号化ソフトを使う方法とクラウドサービスの暗号化機能を活用する方法があります。以下に、それぞれの方法について解説します。
暗号化ソフトの導入
クラウドストレージに保存するデータを暗号化する方法のひとつとして、ユーザーが専用の暗号化ソフトやツールを使って、ファイルを暗号化してからクラウドに保存するという方法があります。この方法では、データを暗号化しておくことで、万が一クラウドストレージが不正アクセスされた場合でも、内容が守られます。
ただし、暗号化ソフトやクラウドストレージによっては、暗号化されたファイルに関して制限がかかることがある点には注意が必要です。例えば、暗号化されたファイルがクラウドサービスで正しく同期されなかったり、クラウドストレージ側で暗号化属性が失われて、復号できなくなる可能性もあります。
そのため、暗号化を行う前に、使用するクラウドストレージと暗号化ツールが互換性があるかを確認し、正しく同期・アクセスできることを確保することが重要です。
クラウドストレージの暗号化機能を活用
Google Drive、Dropbox、OneDriveなどのクラウドストレージサービスには、データを自動で暗号化する機能が備わっているものがあります。これらのサービスでは、ファイルを保存中に自動的に暗号化するだけでなく、データを送受信する際の通信も暗号化されるため、セキュリティを高い水準で維持することができます。
クラウドストレージを利用する際は、そのサービスが暗号化機能を提供しているかどうかを確認することが重要です。暗号化機能が搭載されていれば、設定を適切に行うことで、安心してデータを保管・共有することができます。
クラウドストレージは多層的なセキュリティ対策を!
クラウドストレージは、非常に便利なサービスですが、サイバー攻撃、内部不正、設定ミスなど、さまざまなセキュリティリスクも伴います。したがって、クラウドストレージを利用する際には、リスクをしっかり理解し、それに対応する適切なセキュリティ対策を取ることが重要です。
特に、暗号化は、外部からの攻撃だけでなく、内部の不正行為やヒューマンエラー(操作ミス)に対しても有効な防御策です。たとえ不正アクセスがあったとしても、データが暗号化されていれば、内容が読み取られることなく守られます。
クラウドストレージを安全に活用するためには、暗号化を中心に、複数のセキュリティ対策(多層防御)を実施することが大切です。これにより、万が一のリスクに備え、情報を守ることができます。