サイバー攻撃は、どのような規模の会社でも標的にされる可能性があります。サイバー攻撃でデータを盗まれてしまっても、悪用できなければ被害を最小限に抑えられます。そこで、根源的な対策として「暗号化」があります。暗号化を行っておけば、万が一情報が盗まれても、データの読み取りができなくなります。
本記事では、暗号化の際の「データ暗号化」と「ファイル暗号化」の違いについて解説します。また、運用上の注意点も紹介します。
ファイル暗号化とは?
ファイル暗号化とは、ファイルの内容を第三者が閲覧できないよう保護するセキュリティ技術です。ファイル暗号化の対象は個別のファイルやフォルダに限定されます。 ファイル暗号化が必要な理由は、情報漏えいリスクの低減にあります。 例えば、銀行や法律事務所では機密なドキュメントファイルなどをファイル単位で暗号化し、アクセス権限を持つ従業員のみが閲覧できるようにしています。
ファイル処理およびファイル暗号化の3つの方式
コンピュータシステムにおけるファイル処理は、3つの領域で行われます。それぞれの領域で暗号化の方式や効果も異なります。ここではそれぞれの違いやセキュリティレベルの高さについて解説します。
物理的保存装置
物理的保存装置でのファイル暗号化は、ハードウェアレベルでのデータ保護を提供します。デバイス全体を暗号化することで、高度なセキュリティを実現します。 この手法のメリットは、デバイスの盗難や紛失時にデータを保護できることです。ハードディスク全体を暗号化することで、別の端末でアクセスされても、データの読み取りを防ぐことができます。 暗号化手法としては、OSの全ディスク暗号化が挙げられます。企業が従業員に支給するノートPCに対して、BitLockerなどのツールを使用して全ディスク暗号化を適用する場合があります。 しかし、この方法は、一般的なビジネスシーンでは過剰な場合もあります。通常のビジネス環境では、より柔軟性の高いファイルレベルの暗号化やアプリケーションレベルの暗号化が採用されることが多いでしょう。
カーネル
オペレーティングシステム(OS)カーネルレベルでのファイル暗号化は、システムの特定の部分を暗号化します。 OSカーネルレベルの暗号化は、ユーザーやアプリケーションレベルでは暗号化されていると気づかれないまま暗号化することができます。そのため、ユーザーにとっては使いやすいのがメリットです。 例として、LinuxのeCryptfsやWindowsのEFSが挙げられます。これらのシステムは、特定のディレクトリやファイルシステムを暗号化し、認証されたユーザーのみがアクセスできるようにします。 ただし、ファイルシステムを暗号化するための処理が増えるので、パフォーマンスの低下につながる可能性があります。カーネルレベルでのファイル暗号化を活用する際は、端末の選定段階で考慮するとよいでしょう。
アプリケーション
アプリケーションレベルでのファイル暗号化は最も柔軟性が高く、ユーザーが直接制御できる方法です。この手法では、特定のアプリケーションが独自の暗号化機能を実装し、ユーザーが必要に応じてファイルを暗号化できます。 アプリケーションレベルの暗号化の特徴として、特定の文書や特定のデータタイプのみを暗号化するなど、より精密なセキュリティ管理を実現できます。 例としては、Microsoft Officeの文書暗号化機能やPDFファイルのパスワード保護機能が挙げられます。これらの機能を使用することで、ユーザーは個々のファイルに対して暗号化を適用し、特定の人物のみがアクセスできるようになります。 アプリケーションレベルの暗号化は、ユーザーフレンドリーで柔軟性が高い反面、一貫したセキュリティポリシーの適用が難しくなる場合があります。また、個人単位での鍵管理となるため、組織全体としての方針を適切に決める必要があります。
データ暗号化とは
データ暗号化とは、データを読み取り不可能な文字列に変換し、権限のない第三者への漏えいを防ぐものです。 データ暗号化が必要な理由は、ファイル暗号化と同様、情報セキュリティを確保するためです。サイバー攻撃や情報漏えいのリスクに対して、もしデータが盗まれても、解読できないように対策できます。 例としては、銀行のオンラインシステムが挙げられます。顧客の口座情報や取引データは、強力な暗号化アルゴリズムによって保護されています。また、スマートフォンのメッセージアプリも暗号化を採用しているものがあります。
ファイル暗号化とデータ暗号化の違い
ファイル暗号化とデータ暗号化は、適用範囲と処理方法に大きな違いがあります。 ファイル暗号化は文書やスプレッドシート、画像ファイルなどファイル全体を暗号化します。先ほどの顧客リストの例で言えば、顧客リストファイル全体を暗号化することで、そのファイルに含まれるすべての情報を一括して保護します。 一方で、データ暗号化は、情報の中で特に機密性の高い部分のみを選んで暗号化する手法です。例えば、顧客リストにおいて、会社名や会社の住所は平文のままで、クレジットカード番号や社会保障番号といった極めて重要な情報だけを暗号化することができます。 そのため、必要最小限の情報のみを保護することができ、システムの処理速度への影響を抑えつつ、重要なデータを保護します。
どちらの方法を選択するかは、保護すべき情報の性質や業務の効率性、求められるセキュリティレベルによって判断する必要があります。多くの場合、両方を組み合わせて、より強固な体制を構築します。
ファイル暗号化のメリット
次にファイル暗号化のメリットについて解説します。
情報漏えいリスクの低減
ファイル暗号化を実施することで、サイバー攻撃や不正アクセスからデータを保護できます。さらに、デバイスの紛失や盗難といった物理的なリスクに対しても、データの内容が第三者に読み取られるリスクも低減できます。 暗号化されたファイルは、適切な復号鍵なしでは解読できないため、情報漏えいのリスクを最小限に抑えることが可能となります。
誤送信対策
ヒューマンエラーによるメール添付ファイルの誤送信は、ほとんどの企業で経験があるのではないでしょうか。ファイル暗号化を行っておくことで、万が一誤った相手にファイルを送信してしまった場合でも、受信者がその内容を閲覧することはできません。 そのため、機密情報や個人情報の意図しない流出を防ぐことができ、誤送信による被害を最小限に抑えられます。
コンプライアンス対応
2022年4月に施行された改正個人情報保護法の対応として、ファイル暗号化は有効な手段となります。特に、高度な暗号化技術を用いることで、万が一情報漏えいが発生した場合でも、個人情報保護委員会への報告義務が免除される可能性があります。 これは、暗号化によってデータの内容が保護され、実質的な個人情報の漏えいとみなされない可能性があるためです。
ファイル暗号化のデメリット
ファイル暗号化には、メリットだけでなくデメリットも存在します。具体的に以下で解説します。
生産性の低下
ファイル暗号化を導入すると、PC端末のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。暗号化されたファイルを開くたびに復号の処理が必要となり、特に大容量のファイルの場合、処理速度が遅くなることがあります。 また、ファイルの保存やアクセスに追加の手順が必要となり、従業員の精神的な負担になる可能性があります。これらの要因により、作業のスピードが低下し、全体的な生産性が落ちる可能性があります。
パスワードの管理ミスによるリスク
ファイル暗号化システムの安全性は、使用されるパスワードの強度と管理に大きく依存します。複雑で強力なパスワードを設定し、定期的に変更することが推奨されますが、これは従業員にとって負担となります。また、パスワードを忘れた場合、重要なデータにアクセスできなくなるリスクがあります。 さらに、複数の従業員間でパスワードを共有する必要すると、セキュリティリスクが高まります。そのパスワードが外部に漏えいした場合、暗号化が無効化され、機密情報が危険にさらされてしまいます。
メモリ上での平文データの露出
まれに発生するのがメモリ上での平文データの露出です。 この問題は、暗号化されたファイルを開く際に、その内容全体をメモリ上で復号する必要があるために起こります。結果的にファイル全体の平文データがメモリ上に一時的に存在することになり、この情報に対して不正アクセスがあれば、機密情報などが盗まれてしまいます。 例えば、大規模な顧客データベースファイルを開いた場合、そのファイル全体の内容が復号されてメモリに展開されます。この状態でメモリダンプが行われると、暗号化されていたはずの機密情報が平文で取得される可能性があります。 対策としては、必要最小限のデータのみを復号する部分復号技術の採用や、メモリ上のデータを定期的に消去するメモリクリーニング機能の実装が有効です。
ファイル暗号化の運用上の注意点
ファイル暗号化は、情報セキュリティを強化するうえで有効な手段ですが、運用の際にいくつかの注意点があります。
使用者のミスや故意による暗号化忘れ
ファイル暗号化システムの最大の弱点のひとつは、人的要因による暗号化の不徹底です。この問題の主な理由は、ユーザーの不注意や暗号化プロセスの煩雑さにあります。多忙な業務の中で、ファイルの暗号化を忘れたり、面倒に感じて意図的に省略したりするケースが少なくありません。 例えば、営業担当者が顧客情報を含むファイルを急いで作成し、暗号化せずにそのまま保存してしまうような状況が挙げられます。また、複数の部署で共有するドキュメントを、暗号化の手間を省くために平文のまま共有フォルダに置いてしまうケースもあります。 対策としては、自動暗号化システムの導入や、定期的なセキュリティ教育の実施が効果的です。また、暗号化状態を監視し、未暗号化ファイルを検出するツールの活用も有効な対策となります。
追加のセキュリティツールの必要性
ファイル暗号化だけでは、包括的な情報セキュリティを実現することは困難です。追加のセキュリティツールが必要となる理由は、暗号化システムを効果的に運用し、その脆弱性を補完するためです。 例として以下のようなツールが挙げられます。
鍵管理システム:暗号化・復号に使用する鍵を安全に生成、配布、更新、廃棄するためのツール アクセス制御システム:暗号化されたファイルへのアクセス権限を適切に管理するためのツール セキュリティ監査ツール:暗号化状態やファイルアクセスログを監視・分析するためのツール
大企業では、中央集中型の鍵管理システムを導入し、部門ごとに異なる暗号化鍵を割り当てることで、情報の分離管理を行っています。また、ファイルアクセスログを分析することで、不審な操作や潜在的な情報漏えいリスクを早期に発見できます。
まとめ
本記事では、ファイル暗号化とデータ暗号化の違いに加え、ファイル暗号化の方式、およびメリット・デメリットについて解説しました。
ファイル暗号化は、情報漏えいリスクの低減、誤送信対策、コンプライアンス対応などのメリットがあります。しかし一方で、生産性の低下やパスワード管理のリスクなどのデメリットも存在します。
一方のデータ暗号化は、機密性の高い部分のみを選んで暗号化し、ファイル暗号化はファイル全体を暗号化します。
企業のセキュリティ担当者は、上記のようなファイル暗号化とデータ暗号化 の特性を踏まえ、両者を組み合わせて運用していく必要があります。
ファイル暗号化をご検討中の方には、D.AMO KEをおすすめします。 D.AMO KEは、Windowsサーバーをカーネル方式で暗号化する製品で、個人情報を含むファイルをフォルダ単位で暗号化します。また、アクセス制御機能もあり、ランサムウェア対策にもなります。
また、「データ暗号化」については、以下の記事で詳しく解説しています。併せてお読みください。
データ暗号化とは?仕組みや身近な例・サービスを選ぶポイントを解説