自治体情報セキュリティクラウドとは?仕組みやメリット、課題や導入事例などを紹介

自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県が主体となり、市町村のインターネット接続を共通基盤に集約して管理・防御する仕組みです。年金機構の情報漏えいやマイナンバー制度開始を契機に整備が進み、コスト削減やセキュリティ水準の統一といったメリットをもたらす一方、障害時のリスクや財政的負担などの課題も存在します。

本記事では、その仕組みやガイドラインとの違いやメリット、課題や導入事例を紹介します。

自治体情報セキュリティクラウドとは?

自治体情報セキュリティクラウドとは、都道府県が主体となり、県内の市町村が利用するインターネット接続システムを共通のセキュリティ基盤に集約し、一括して管理・防御する仕組みです。これにより、各自治体が個別にセキュリティ機器や監視体制を整備する必要がなくなり、共同利用によって効率的かつ高度な防御を実現できます。

導入のきっかけとなったのは、2015年の日本年金機構における大規模な情報漏えい事件や、マイナンバー制度の開始でした。この仕組みは、人材不足や財政面での制約を補いながら、全国の自治体において統一的で持続可能なセキュリティ水準を確保することを目的としており、住民は安心して行政サービスを利用でき、行政への信頼性も向上させることができます。

自治体情報セキュリティクラウドの仕組み

自治体情報セキュリティクラウドでは、一定のセキュリティ水準を維持しつつ、自治体がインターネットを安全かつ効率的に利用できるよう、総務省が提言した「三層の対策」が採用されています。これは情報システムを3つの領域に分け、それぞれに適切な防御策を講じる方式です。具体的には以下のとおりです。

  • 個人番号利用事務系:マイナンバーを含むデータを取り扱う領域
  • LGWAN接続系:地方公共団体どうしを接続する専用ネットワーク
  • インターネット接続系:機密性の高い情報は取り扱わない領域

この仕組みにより、全国の自治体が共通の基準でセキュリティを確保でき、住民サービスの安全性と行政への信頼性向上につなげることができます。

自治体セキュリティガイドラインとの違い

自治体セキュリティガイドラインとは、地方公共団体が情報セキュリティ対策を計画的かつ確実に進めるための基本方針をまとめた指針で、総務省が策定しています。これに対し、自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県が市町村のインターネット接続部分をまとめて管理し、Webサーバーの監視やログ解析などを行う仕組みです。

自治体セキュリティガイドラインは「どのように取り組むべきか」というルールを示す役割である一方、自治体情報セキュリティクラウドは「そのルールを実際に実現するための仕組み」といえます。両者は相互関係にあり、自治体が強靭かつ持続可能で信頼性の高い情報基盤を構築するには不可欠な要素となっています。

ガバメントクラウドとの違い

ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備する国や地方公共団体が共通で利用できるクラウドサービスの基盤であり、システム開発や維持にかかるコストを削減し、住民サービスの利便性を大幅に高めることを目的としています。一方で、自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県単位でインターネット接続を集約し、セキュリティ監視や防御を行う共同の基盤です。

ガバメントクラウドが「利便性重視の共通基盤」であるのに対し、自治体情報セキュリティクラウドは「防御重視の基盤」として機能する点が大きな違いです。両者を組み合わせることで行政のデジタル化推進と安全性確保を同時に実現し、持続可能で信頼性の高い行政サービス基盤を築くことが可能となります。

自治体情報セキュリティクラウドのメリット

自治体情報セキュリティクラウドには、コスト削減や全国的な水準向上、持続可能な運用体制など多くの利点があり、自治体の課題解決に直結します。ここでは、自治体情報セキュリティクラウドのメリットを紹介します。

メリット①コストと財政リスクの低減

自治体情報セキュリティクラウドを導入すると、サーバー設備やネットワーク機器の購入・維持管理にかかるコストを大幅に削減できます。

まず、各自治体が個別にインフラを整備する必要がなくなり、共同利用によって重複投資を避け、効率的で持続可能なコスト構造を実現できます。また、設備更新やシステム更改に伴う突発的な予算支出を抑え、年間を通じた支出計画を立てやすくなる点も大きな利点です。

さらに、障害対応や機器老朽化による想定外の負担も軽減され、財政運営上のリスクを下げられます。クラウドは利用状況に応じた課金体系で柔軟に対応できるため、短期的なコスト削減と中長期的な財政健全化を同時に実現し、安定した行政運営に寄与します。

メリット②全国統一のセキュリティ水準向上

自治体情報セキュリティクラウドの導入によって、自治体ごとにばらつきがあったセキュリティ対策が整理され、全国的に統一された水準を確保できるようになりました。財政や人材の差から生じていた格差も小さくなり、都道府県単位で共通の高水準な仕組みを利用できることは、大きな前進です。

さらに、総務省が定める「三層の対策」を土台に、マイナンバーを含む個人情報や業務システムを守る通信分離や標準化された防御策が導入されました。加えて、IPS・IDS・WAFなどの多層防御により日々のサイバー攻撃の99%以上を遮断し、47都道府県すべてで効果が確認されています。

今後は監視や予防体制の強化に加え、高度人材による運用や迅速な復旧対応を標準化する取り組みも進められています。

メリット③持続可能なセキュリティ運用

自前で複雑なセキュリティ体制を構築する必要がなくなる点もメリットです。運用や管理はクラウド上で一括して行われるため、専任スタッフが不足している自治体でも効率的に安全性を維持できます。

設備導入やメンテナンス作業が不要になることで、オンプレミス環境に求められていた高度な知識や人員体制を最小限に抑えられるのも利点です。さらに、監視・障害対応・脆弱性管理を提供事業者が担い、SOC(Security Operation Center)による常時監視とインシデント対応体制も整備されています。

その結果、限られた人材リソースでも高いセキュリティ水準を保てるだけでなく、職員一人ひとりの業務負担も大幅に軽減されます。

自治体情報セキュリティクラウドが抱える課題

利便性や統一性の向上と引き換えに、障害時の影響範囲や合意形成の難しさ、持続的な財政的負担といった課題も存在し、解決が求められています。ここでは、自治体情報セキュリティクラウドが抱える課題について紹介します。

課題①単一障害点による広範囲影響リスク

自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県単位でインターネット接続口を集約して運用する仕組みです。しかし、集約構造であるがゆえに、ひとたび障害が発生すると広範囲に影響が及びやすいというリスクがあります。

実際に、通信機器や仮想基盤の故障が原因で、9県において約19万人の職員がメールやインターネットを利用できなくなる重大な障害が発生しました。ほかにも、メンテナンス時の設定ミスによって、複数の県や市町村のメールシステムがスパムの踏み台にされる事例も報告されています。

このようなリスクも顕在化しており、影響範囲の大きさを踏まえた冗長化や運用体制の強化も重要です。

課題②運用・品質の格差と合意形成の難しさ

全国で導入が進んでいる自治体情報セキュリティクラウドは、都道府県ごとに独自の要件を定めているため、セキュリティレベルに差が生じています。監視や運用を担うベンダーの技術力にも違いがあり、サービス品質にばらつきが見られる点は大きな課題です。

また、複数の自治体が共同で利用する仕組みであるため、契約形態や責任分担、運用ルールの整備を巡って調整が必要となります。こうした合意形成には時間がかかりやすく、結果として安定した運用を妨げる要因となりやすいのです。

そのため、格差の是正と円滑な調整プロセスの確立が、今後の持続的な運用に欠かせません。

課題③財政的な負担の持続性

導入当初こそサーバーやネットワーク機器の個別調達が不要となり、大きなコスト削減効果が期待できますが、長期的に利用を続ける場合には、サービス利用料や運用契約費といったランニングコストが恒常的に発生します。

実際に先行導入した自治体の調査でも、契約更新や運用費の負担が財政面の課題として浮き彫りになっており、特に予算規模が限られる中小自治体にとっては、この継続的な支出が大きな圧力となる可能性があります。結果として、安定的な運用を続けられるかどうか不安を残す要因にもなるでしょう。

自治体情報セキュリティクラウドの導入事例

事例①広域連携によるコスト削減

各県が個別に自治体情報セキュリティクラウドを整備すると、導入や運用にかかる費用が大きく、中小規模の自治体では財政的な負担が課題となっていました。そこで東北6県と新潟県の計7県は、第2期クラウド構築から共同調達の仕組みを導入しました。

また、幹事県が順番に公募型プロポーザルを実施し、他県も審査に参加することで公平性と透明性を確保しました。これにより、初期費用は全団体で削減され、多くの自治体でランニングコストの低減も実現できました。スケールメリットや作業効率化の効果が表れ、特に財政余力の少ない自治体にとって大きな利点となりました。

事例②共同監視による小規模自治体支援

大阪府では、セキュリティ専任人材を確保できない小規模自治体の負担が課題となっていました。そこで平成28年度に「大阪版クラウド」を設計・構築し、翌29年4月から正式運用を開始しました。

府内43市町村のWebサーバーを府庁内に集約し、インターネット接続を一元化し、府が監視センターを設置することで、全自治体が高度なセキュリティ監視と対策を共同で受けられる体制を整備したことで障害や攻撃発生時も迅速に全体対応が可能となりました。

その結果、地域全体のセキュリティ水準が底上げされ、職員の負担軽減と運用効率化を同時に実現しました。

まとめ

自治体情報セキュリティクラウドは、コスト削減や全国統一の水準確保など大きな成果をもたらしていますが、障害時の影響範囲や財政的負担の持続性といった課題も残されています。

ペンタセキュリティではデータ暗号化ソリューション「D.AMO」を提供しており、活用することで重要情報を堅牢に守る仕組みを構築できます。クラウド基盤の利便性と、専用セキュリティの強固さを組み合わせることで、住民が安心して利用できる持続可能な行政サービスの実現につなげることができます。